2015年6月7日日曜日

最高裁判決-「プロダクト・バイ・プロセス・クレーム」の解釈-

 最高裁第2小法廷は、「物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されている場合であっても,その特許発明の技術的範囲(要旨)は,当該製造方法により製造された物と構造,特性等が同一である物として確定(認定)されるものと解する」と判示し、原判決を破棄・知財高裁に差し戻しました。

 ハンガリーの医薬品メーカー「テバ」が自らのPDP(Product-by-Process)クレーム特許と同一成分の薬を製造販売する協和発酵キリン等に対して、その製造販売等の差し止めを求め提訴していたものです。

 原審である知財高裁は、裁判官5人による大合議判決により、物の発明をその製造方法によって特定したPDPクレームの技術的範囲及び無効の抗弁(特許法104条の3)における発明の要旨の認定のいずれについても,物の構造又は特性により直接的に特定することが出願時において不可能又は困難であるとの事情が存在しない場合,その技術的範囲及び要旨は,クレームに記載された製造方法によって製造された物に限定される判示しました。
 つまり、知財高裁は、クレームに記載された製法を限定要素とする『製法限定説』の立場です。

 それに対して、最高裁は、原審には判例違反があるとして、原判決を破棄しました。つまり、当該製法により製造された物と構造,特性等が同一である物として確定される(『物同一説』)の立場です。

 そして、クレームの記載の「明確性要件」(特許法36条6項2号)について、この要件に適合するといえるのは、出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか,又はおよそ実際的でないという事情(「不可能・非実際的事情」)が存在するときに限られると判示しました。
 裁判では、被疑侵害者の特許無効抗弁」(特許法104条の3)になりますから、立証責任は被疑侵害者でしょうか?被疑侵害者が「発明が明確でないので無効」とうい主張に対して、特許権者が「不可能・非実際的事情が存在する」ので明確性の要件を満たすと反論するのですから特許権者に立証責任があるように思います。

 補足意見を千葉裁判官と山本裁判官が述べられています。
 山本裁判官は、物の発明をPBPクレーム形式で記載しないと、かえって明確でなくなる場合があることを懸念されていますが、私も賛成です。

 同裁判官は、さらに、不可能非実際的基準では発明の保護が図られなくなるおそれにつながる懸念を示し、「発明の要旨」と「特許発明の技術的範囲」とは、クレーム解釈としては本来一致すべきものではあるが、PBPクレームで表現された物の特許について発明の技術的範囲を実質的にその方法に限定されるように解釈することで妥当な結論が導かれるのではないかとの意見を述べられています。

 しかしながら、最高裁判決は、「発明の要旨」と「特許発明の技術的範囲」のみならず、発明の明確性(多数ある無効理由の中の1つ)を取り上げ、その判断基準を示しています。そして、その基準に基づいて再度審理するように知財高裁に差し戻しました。
 最高裁が、このように(特許庁の運用基準に規定されるような)細かいところに基準を定めることには疑問です。それは事実審を行う下級審にまかせればよいと考えます。また、「不可能・非実際的事情」が存在することの証明はほとんど不可能(あるいは実際的ではない。結果として特許無効)のように思いますが、どうでしょうか?

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