2017年4月9日日曜日

基生会、春に集まる。
勝どきのイタリアレストランです。Vialetto(ヴィアレット)
7名が集まりました。今回来られなかった1人は心筋梗塞を煩いカテーテル治療を受けたということです。このような世代です。

2017年3月7日火曜日

商標権の移転が利益相反にあたる場合

やっと解ったような気がします。

 「利益相反」とは、取締役と会社との利害が相反することをいいます。具体的には、譲渡人と譲受人の代表取締役が同一人の場合です。
 「利益相反行為」に該当する場合には、商標権の移転登録の申請の際に譲渡証書に加えて取締役議事録を提出する必要があります。取締役会を設置していない会社は、株主総会において承認を得る必要があります。さらに、取締役会を設置していない会社であることを証明する書類の提出も必要です。具体的には、登記事項証明書(「履歴事項全部証明書」・「現在事項全部証明書」など)。登記事項証明書は、取締役会又は株主総会の開催日以後に認証されたものであることが必要です。
 譲渡対価が無償の場合、譲渡人の取締役会(株主総会)議事録の提出だけでよく、譲受人には必要とされません。無償だから、譲受人に不利益とはならないからです。
 譲渡の対価が有償の(譲渡証書に「無償で」と記載していない)場合、譲渡人のみならず譲受人の取締役会(株主総会)議事録の提出が必要です。

2016年6月10日金曜日

特許(均等論)についての知財高裁大合議判決 マキサカルシトール事件

知財高裁H28・3・25判決 H27(ネ)10014号 マキサカルシトール事件

原審 東京地裁H26・12・24判決 H25年(ワ)4040号)

事実の概要

 原告が被告らの行為が本件特許権(特許第3310301号 発明の名称「ビタミンDおよびステロイド誘導体の合成用中間体およびその製造方法」)を侵害するとして、東京地裁に被告らによる被告製品の輸入、譲渡等の行為の中止等を求めた。原告は、活性型ビタミンD3誘導体であるマキサカルシトールを有効成分とする角化症治療剤を製造販売しており、マキサカルシトールを含む化合物についての特許権は、存続期間の延長登録を経て、平成22年12月26日に存続期間が満了している。
 原審は,控訴人方法が訂正後の特許請求の範囲の請求項13に係るマキサカルシトールを含む、活性型ビタミンD3誘導体の製造方法に関する発明(以下「訂正発明」という。)と均等であることを認め,また,本件発明に係る特許が特許無効審判により無効にされるべきものとは認められないと判断して,原告の請求を全部認容したため,控訴人(原審被告)らが,原判決を不服として,本件控訴をした。
 控訴審の審理中に,上記訂正を認める旨の審決が確定した。

判 旨

 控訴棄却。知財高裁は、大合議審理において,控訴人方法は,訂正発明と均等であり,また,訂正発明についての特許が特許無効審判により無効にされるべきものとは認められないものと判断した。

 1 訂正発明との均等の成否について

 (1) 均等の5要件及び立証責任について

 (ボールスプライン事件最判を引用後)
 「そして,第1要件ないし第5要件の主張立証責任については,均等が,特許請求の範囲の記載を文言上解釈し得る範囲を超えて,これと実質的に同一なものとして容易に想到することのできるものと認定される範囲内で認められるべきものであることからすれば,かかる範囲内であるために要する事実である第1要件ないし第3要件については,対象製品等が特許発明と均等であると主張する者が主張立証責任を負うと解すべきであり,他方,対象製品等が上記均等の範囲内にあっても,均等の法理の適用が除外されるべき場合である第4要件及び第5要件については,対象製品等について均等の法理の適用を否定する者が主張立証責任を負うと解するのが相当である。」

 (3) 均等の第1要件(非本質的部分)について

 ア 本質的部分の認定について

 「特許法が保護しようとする発明の実質的価値は,従来技術では達成し得なかった技術的課題の解決を実現するための,従来技術に見られない特有の技術的思想に基づく解決手段を,具体的な構成をもって社会に開示した点にある。したがって,特許発明における本質的部分とは,当該特許発明の特許請求の範囲の記載のうち,従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分であると解すべきである。
 そして,上記本質的部分は,特許請求の範囲及び明細書の記載に基づいて,特許発明の課題及び解決手段 (特許法36条4項,特許法施行規則24条の2参照)とその効果(目的及び構成とその効果。平成6年法律第116号による改正前の特許法36条4項参照)を把握した上で,特許発明の特許請求の範囲の記載のうち,従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分が何であるかを確定することによって認定されるべきである。すなわち,特許発明の実質的価値は,その技術分野における従来技術と比較した貢献の程度に応じて定められることからすれば,特許発明の本質的部分は,特許請求の範囲及び明細書の記載,特に明細書記載の従来技術との比較から認定されるべきであり,そして,①従来技術と比較して特許発明の貢献の程度が大きいと評価される場合には,特許請求の範囲の記載の一部について,これを上位概念化したものとして認定され(後記ウ及びエのとおり,訂正発明はそのような例である。),②従来技術と比較して特許発明の貢献の程度がそれ程大きくないと評価される場合には,特許請求の範囲の記載とほぼ同義のものとして認定されると解される。」
 「また,第1要件の判断,すなわち対象製品等との相違部分が非本質的部分であるかどうかを判断する際には,特許請求の範囲に記載された各構成要件を本質的部分と非本質的部分に分けた上で,本質的部分に当たる構成要件については一切均等を認めないと解するのではなく,上記のとおり確定される特許発明の本質的部分を対象製品等が共通に備えているかどうかを判断し,これを備えていると認められる場合には,相違部分は本質的部分ではないと判断すべきであり,対象製品等に,従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分以外で相違する部分があるとしても,そのことは第1要件の充足を否定する理由とはならない。」

 エ 訂正発明の本質的部分

 訂正発明の上記課題及び解決手段とその効果に照らすと,訂正発明の本質的部分(特許請求の範囲の記載のうち,従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分)は,ビタミンD構造又はステロイド環構造の20位アルコール化合物を,末端に脱離基を有する構成要件B-2のエポキシ炭化水素化合物と反応させることにより,一工程でエーテル結合によりエポキシ基を有する側鎖を導入することができるということを見出し,このような一工程でエーテル結合によりエポキシ基を有する側鎖が導入されたビタミンD構造又はステロイド環構造という中間体を経由し,その後,この側鎖のエポキシ基を開環するという新たな経路により,ビタミンD構造又はステロイド環構造の20位アルコール化合物にマキサカルシトールの側鎖を導入することを可能とした点にあると認められる。


(マキサカルシトール Maxacalcitol)

 一方,出発物質の20位アルコール化合物の炭素骨格(Z)がシス体又はトランス体のビタミンD構造のいずれであっても,出発物質を,末端に脱離基を有するエポキシ炭化水素化合物と反応させることにより,出発物質にエーテル結合によりエポキシ基を有する側鎖が導入された中間体が合成され,その後,この側鎖のエポキシ基を開環することにより,マキサカルシトールの側鎖を導入することができるということに変わりはない。この点は,中間体の炭素骨格(Z)がシス体又はトランス体のビタミンD構造のいずれである場合であっても同様である。したがって,出発物質又は中間体の炭素骨格(Z)のビタミンD構造がシス体であることは,訂正発明の特許請求の範囲の記載のうち,従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分とはいえず,その本質的部分には含まれない。

 オ 控訴人方法の第1要件の充足

 控訴人方法は,ビタミンD構造の20位アルコール化合物(出発物質A)を,末端に脱離基を有する構成要件B-2のエポキシ炭化水素化合物と同じ化合物(試薬B)と反応させることにより,出発物質にエーテル結合によりエポキシ基を有する側鎖が導入されたビタミンD構造という中間体(中間体C)を経由し,その後,この側鎖のエポキシ基を開環することにより,マキサカルシトールの側鎖をビタミンD構造の20位アルコール化合物に導入するものであるから,訂正発明の特許請求の範囲の記載のうち,従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分を備えているといえる。
 一方,控訴人方法のうち,訂正発明との相違点である出発物質及び中間体の「Z」に相当するビタミンD構造がシス体ではなく,トランス体であることは,前記エのとおり,訂正発明の本質的部分ではない。
 したがって,控訴人方法は,均等の第1要件を充足すると認められる。

 (4) 均等の第2要件(置換可能性)について

 控訴人方法における上記出発物質A及び中間体Cのうち訂正発明のZに相当する炭素骨格はトランス体のビタミンD構造であり,訂正発明における出発物質(構成要件B-1)及び中間体(構成要件B-3)のZの炭素骨格がシス体のビタミンD構造であることとは異なるものの,両者の出発物質及び中間体は,いずれも,ビタミンD構造の20位アルコール化合物を,同一のエポキシ炭化水素化合物と反応させて,それにより一工程でエーテル結合によりエポキシ基を有する側鎖が導入されたビタミンD構造という中間体を経由するという方法により,マキサカルシトールを製造できるという,同一の作用効果を果たしており,訂正発明におけるシス体のビタミンD構造の上記出発物質及び中間体を,控訴人方法におけるトランス体のビタミンD構造の上記出発物質及び中間体と置き換えても,訂正発明と同一の目的を達成することができ,同一の作用効果を奏しているものと認められる。

 (5) 均等の第3要件(置換容易性)について

 そうすると,控訴人方法の実施時(本件特許権の侵害時)において,訂正発明の目的物質に含まれるマキサカルシトールを製造するために,訂正発明の出発物質における「Z」として,シス体のビタミンD構造の代わりに,トランス体のビタミンD構造を用い,この出発物質Aを,訂正発明の試薬と同一の試薬Bと反応させて,トランス体である以外には訂正発明の中間体と異なるところがない中間体Cを生成すること,中間体Cの側鎖のエポキシ基を開環してマキサカルシトールの側鎖を有するトランス体である物質Dを得ること,最終的には物質Dに光照射を行いシス体へと転換し,水酸基の保護基を外して,訂正発明の目的物質と同じマキサカルシトールを製造するという控訴人方法は,当業者が訂正発明から容易に想到することができたものと認められる。
 したがって,控訴人方法は,均等の第3要件を充足すると認められる。

 (6) 均等の第4要件(対象方法の容易推考性)について

 控訴人らは,控訴人方法は,乙4文献に基づき,本件優先日当時容易に推考ができた旨を主張する。しかし,控訴人らの同主張が認められないことについては,原判決の「事実及び理由」の第4の4(1)ないし(6)に判示のとおりであるから,これを引用する。
 したがって,控訴人方法について,均等の第4要件における対象方法の容易推考性は認められない。

 (7) 均等の第5要件(特段の事情)について

 ア 第5要件の判断基準について

  (ア) この点,特許請求の範囲に記載された構成と実質的に同一なものとして,出願時に当業者が容易に想到することのできる特許請求の範囲外の他の構成があり,したがって,出願人も出願時に当該他の構成を容易に想到することができたとしても,そのことのみを理由として,出願人が特許請求の範囲に当該他の構成を記載しなかったことが第5要件における「特段の事情」に当たるものということはできない。
 なぜなら,①上記のとおり,特許発明の実質的価値は,特許請求の範囲に記載された構成以外の構成であっても,特許請求の範囲に記載された構成からこれと実質的に同一なものとして当業者が容易に想到することのできる技術に及び,その理は,出願時に容易に想到することのできる技術であっても何ら変わりがないところ,出願時に容易に想到することができたことのみを理由として,一律に均等の主張を許さないこととすれば,特許発明の実質的価値の及ぶ範囲を,上記と異なるものとすることとなる。また,②出願人は,その発明を明細書に記載してこれを一般に開示した上で,特許請求の範囲において,その排他的独占権の範囲を明示すべきものであることからすると,特許請求の範囲については,本来,特許法36条5項,同条6項1号のサポート要件及び同項2号の明確性要件等の要請を充たしながら,明細書に開示された発明の範囲内で,過不足なくこれを記載すべきである。しかし,先願主義の下においては,出願人は,限られた時間内に特許請求の範囲と明細書とを作成し,これを出願しなければならないことを考慮すれば,出願人に対して,限られた時間内に,将来予想されるあらゆる侵害態様を包含するような特許請求の範囲とこれをサポートする明細書を作成することを要求することは酷であると解される場合がある。これに対し,特許出願に係る明細書による発明の開示を受けた第三者は,当該特許の有効期間中に,特許発明の本質的部分を備えながら,その一部が特許請求の範囲の文言解釈に含まれないものを,特許請求の範囲と明細書等の記載から容易に想到することができることが少なくはないという状況がある。均等の法理は,特許発明の非本質的部分の置き換えによって特許権者による差止め等の権利行使を容易に免れるものとすると,社会一般の発明への意欲が減殺され,発明の保護,奨励を通じて産業の発達に寄与するという特許法の目的に反するのみならず,社会正義に反し,衡平の理念にもとる結果となるために認められるものであって,上記に述べた状況等に照らすと,出願時に特許請求の範囲外の他の構成を容易に想到することができたとしても,そのことだけを理由として一律に均等の法理の対象外とすることは相当ではない。
 (イ) もっとも,このような場合であっても,出願人が,出願時に,特許請求の範囲外の他の構成を,特許請求の範囲に記載された構成中の異なる部分に代替するものとして認識していたものと客観的,外形的にみて認められるとき,例えば,出願人が明細書において当該他の構成による発明を記載しているとみることができるときや,出願人が出願当時に公表した論文等で特許請求の範囲外の他の構成による発明を記載しているときには,出願人が特許請求の範囲に当該他の構成を記載しなかったことは,第5要件における「特段の事情」に当たるものといえる。
 なぜなら,上記のような場合には,特許権者の側において,特許請求の範囲を記載する際に,当該他の構成を特許請求の範囲から意識的に除外したもの,すなわち,当該他の構成が特許発明の技術的範囲に属しないことを承認したもの,又は外形的にそのように解されるような行動をとったものと理解することができ,そのような理解をする第三者の信頼は保護されるべきであるから,特許権者が後にこれに反して当該他の構成による対象製品等について均等の主張をすることは,禁反言の法理に照らして許されないからである。

 したがって,控訴人方法について,均等の第5要件における特段の事情は認められない。

 (8) 小括

 以上によれば,控訴人方法は,訂正発明と均等であり,その技術的範囲に属するものと認められる。

 3 訂正発明についての無効理由の有無について

  「そうすると,当業者において,本件試薬を乙14発明と組み合わせる動機付けがあるとはいえないから,相違点2(試薬の相違)に係る訂正発明の構成は,当業者において容易に想到することができたものとはいえない。
 (イ) また,当業者において,乙14発明のエポキシド化合物に代えて,訂正発明の中間体であるエポキシド化合物を得ようとする動機付けは,乙14文献にも,本件訴訟に提出された他の公知文献にも記載されておらず,その示唆もない。
 したがって,相違点3(エポキシド化合物の相違)に係る訂正発明の構成についても,当業者において容易に想到することができたものとはいえない。」

 3 まとめ

  以上によれば,控訴人方法は,訂正発明と均等なものとして,訂正発明の技術的範囲に属するものと認められる。また,訂正発明について控訴人らが主張する無効理由はいずれも理由がなく,訂正発明についての特許が特許無効審判により無効にされるべきものとは認められない。
 そして,前記前提となる事実によれば,控訴人製品はいずれも控訴人方法によって製造されたものであるから,控訴人製品1を輸入し又は譲渡する行為及び控訴人製品2を譲渡し又は譲渡の申出をする行為は,いずれも本件特許権を侵害する。したがって,本件特許権の存続期間の延長登録がされる前における存続期間の末日である平成29年9月3日まで,控訴人DKSHに対しては控訴人製品1の輸入又は譲渡の差止め及び廃棄を,控訴人岩城製薬,控訴人高田製薬及び控訴人ポーラファルマに対してはそれぞれ控訴人製品2(1)ないし(3)の譲渡又は譲渡の申出の差止め及び廃棄を求める被控訴人の請求は,いずれも理由がある。

 第5 結論

  以上によれば,被控訴人の請求をいずれも認容した原判決は相当であり,控訴人らの本件控訴はいずれも理由がない。

検 討

 立証責任

 従来から均等の第1要件ないし第3要件の立証責任は均等の主張者にあり、第4要件と第5要件は抗弁権であるという考えがあったが、5要件は均等の主張要件であるのですべて均等の主張者に立証責任があるという主張もあった。
 本判決で初めて、知財高裁が第1要件ないし第3要件は,対象製品等が特許発明と均等であると主張する者が主張立証責任を負い,第4要件及び第5要件は,均等の法理の適用を否定する者が主張立証責任を負うことを示した。

 第1要件(非本質的部分)

 これまでの判決では、(非)本質的部分の認定にあたり、イ号物件は考慮することなく、請求項の各構成要件を本質的部分と非本質的部分に分ける説(技術的特徴説)と、置換されたイ号物件が特許発明の技術的思想の範囲内にあるかによって判断する説(技術的思想(同一特)説)に別れていたが、本判決は後者を採用した。
 ボールスプライン事件最判の第1要件から直接には読めないが、一旦本質的部分と認定されれば、一切均等が否定される技術的特徴説ではなく、従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分が何であるかを確定し、特許発明の本質的部分を対象製品等が共通に備えているかどうかにより認定する技術的思想(同一)説に立つ判決は多かった。

 第2要件(置換可能性)

 単に、「訂正発明におけるシス体のビタミンD構造の上記出発物質及び中間体を,控訴人方法におけるトランス体のビタミンD構造の上記出発物質及び中間体と置き換えても,訂正発明と同一の目的を達成することができ,同一の作用効果を奏しているものと認められる。」と認定している。
 第1要件について技術的思想(同一特)説を採用すると、第1要件と第2要件の異同が議論され、両者は同義との考えもある。(田村善之「均等論における本質的部分の要件の意義-均等論は「真の発明」を救済する制度か?-」同『特許法の理論』(2009年・有斐閣)108頁参照)

 第3要件(置換容易性)

 控訴人方法の実施時(本件特許権の侵害時)に,訂正発明の出発物質を,シス体の代わりに,トランス体のビタミンD構造を用い,最終的には物質Dに光照射を行いシス体へと転換し,訂正発明の目的物質と同じマキサカルシトールを製造するという控訴人方法は,当業者が訂正発明から容易に想到することができたものと認定した。つまり、当業者の認識により容易想到性を基礎付けた。
 一方、出願時に既に存在していた他の物質、技術との置換は、出願時に容易に想起できたにもかかわらず、クレームに含めなかったので、当該他の物質等に置換した構成は意識的に除外したものであり、「特段の事情」あたるという(三村量一・髙部眞規子らの)考えがあった。

 第4要件(対象方法の容易推考性)

 「仮想的クレーム」の要件ともいう。本判決により、第4要件の立証責任が被疑侵害者にあることを確認した。

 第5要件(特段の事情)

 特許請求の範囲に記載された構成と実質的に同一なものとして,出願時に当業者が容易に想到することのできるクレームの範囲外の他の構成があり,したがって,出願人も出願時に当該他の構成を容易に想到することができたとしても,そのことのみを理由として,出願人がクレームに当該他の構成を記載しなかったことが「特段の事情」に当たるものということはできないが、出願時に,当該他の構成を,クレームに記載された構成中の異なる部分に代替するものとして認識していたものと客観的,外形的にみて認められるとき,「特段の事情」に当たると判示した。
 そして、「特段の事情」に当たる例として,出願人が明細書において当該他の構成による発明を記載しているときや,出願人が出願当時に公表した論文等で当該他の構成による発明を記載しているときを挙げた。例として、出願当時に公表した論文に記載しているときを挙げているが、疑問である。最も、出願前であれば特許要件の問題となり、出願後であれば「特段の事情」にはならないであろう。

※ 本検討は、北海道大学教授 田村善之氏の講演(平成28年6月3日、日本弁理士会主催)に感受された。

以 上

2016年2月15日月曜日

特許関連の出願・登録・年金の印紙代が4月1日から減額

2016年4月1日から特許及び商標の出願時・登録時・更新時に支払う特許印紙代が下がります。
(詳細は、特許庁のサイト参照) 商標では、次の表に示すとおりです。現行の約75%になりますから、1/4減額となります。

2016年1月11日月曜日

自他商品の識別機能を有する商標としての使用か? ヨーロピアン不使用取消事件

知財高裁判 H27.9.30 H27(行ケ)10032 審決取消請求事件

事実の概要

1 本件は,被告が有する商標権について,原告が商標法50条に基づき不使用取消審判請求をしたところ,特許庁が審判請求は成り立たないとの審決をしたため,原告が審決の取消を求めた事案である。

2 原告が商標法50条1項に基づき請求した,本件商標の指定商品のうち,「コーヒー及びココア,コーヒー豆」に係る部分について商標登録の取消審判(以下「本件審判」という。)に対して、特許庁は,請求不成立の審決をした。
 なお,ハウス食品株式会社は,平成11年4月26日,本件商標の登録につき,商標法3条1項3号及び同法4条1項16号に該当するとして,登録異議を申し立てたものの,特許庁は,本件商標の登録を維持する旨の決定をし,同決定は確定している。

3 審決の理由は,被告は,本件審判の請求の登録前3年以内に,日本国内において,取消請求に係る指定商品「コーヒー及びココア」の範ちゅうに属する「インスタントコーヒー」(以下「本件商品」という。)の包装袋(以下「本件包装袋」という。)の表面に,「ヨーロピアン」と「コーヒー」を二段に表示し,「ヨーロピアン」の「ン」の文字の右斜め上に小さくⓇ記号が付されている標章を使用しているところ,このうち「ヨーロピアン」の標章が,が付されており,本件商標と社会通念上同一の商標と認められるから,被告は,「ヨーロピアン」の商標を付した本件商品を譲渡しており(商標法2条3項2号),これにより本件商標と社会通念上同一と認められる商標を商標権者が使用していたことを証明したものと認められるというものである。

4 本件の争点は,① 被告の本件包装袋における「ヨーロピアン」標章の使用が自他商品識別機能を有する商標としての使用と認められるか,② 被告が,本件包装袋において,本件商標と社会通念上同一と認められる商標を使用したかである。

判 旨

 請求棄却、審決維持。
 本件商標の商標権者である被告による本件商品における「ヨーロピアン コーヒー」商標の使用は,本件審判請求の予告登録がされた平成26年1月15日から遡って3年以内における,自他商品識別機能を有する商標の使用であり,かつ,本件商標と社会通念上同一と認められる商標の使用と認められると判断する。

1 認定事実
 上記認定事実によれば,本件審判請求の予告登録がされた平成26年1月15日から遡って3年以内である平成25年11月16日及び同年12月5日に,被告は,日本国内において本件商標の指定商品である「コーヒー及びココア,コーヒー豆」に含まれる本件商品の包装袋に,「ヨーロピアン コーヒー」の二段書き標章を表示して,これを販売したことが認められる。

2 本件包装袋における「ヨーロピアン コーヒー」の二段書き標章の使用は,自他商品の識別機能を有する商標としての使用と認められるか。
 (1) 「ヨーロピアン」の文字をコーヒーあるいはコーヒー豆に使用している例としては,例えば,ベルギーのロンバウツが「ROMBOUTS」商標を付して販売している3種類のコーヒー豆には,それぞれ「ロイヤル」「マイルド」「ヨーロピアン」の3種類の品質を表す表示が付されており,また,オフィスリングが「A4カフェ12」商標を付して販売している3種類のコーヒー豆には,それぞれ「マイルド」「シアトル」「ヨーロピアン」の3種類の品質を表す表示が付されており,さらに,UCC FOODSが「UCC」の商標を付して販売しているコーヒー豆には,「ROYAL EUROPEAN」がその品質を表す表示として付されており,さらにまた,キーコーヒー株式会社が「KEY COFFEE」の商標を付して販売しているコーヒー豆には,「ヨーロピアンリッチ」あるいは「ヨーロピアンテイスト」がその品質を表す表示として付されており,そして,原告が「GEORGIA」のブランドを付して販売している缶コーヒーには,「EUROPEAN」との表示がそのコーヒーの風味(品質)を表すものとして表示されている例がある。
 このような例について考察すると,「ヨーロピアン」の語は,他の自他商品識別機能が強い商標と併用されてコーヒーやコーヒー豆に使用されている場合には,単にコーヒーの品質を表示するだけであり,自他商品識別機能を有する商標として使用されているものとは認めることはできない場合が多い,ということができる。

 (2) これに対し,本件包装袋には「ヨーロピアン コーヒー」の二段書き標章が付されていることは前記認定のとおりである。本件包装袋には,このほかに,「無糖」,「お湯を注ぐだけ」との表示と「ホットコーヒーが入ったコーヒーカップの図柄」とが表示されているだけであり,これらが本件商品の品質や内容の単なる説明であって,商標として表示されているものではないことは明らかであり,本件商品には,ほかに自他商品識別機能を有する商標は使用されていない。そして,本件包装袋における「ヨーロピアン コーヒー」の二段書き標章は,いずれも同じ書体で同じ大きさの文字で,他の文字に比べると大きく,包装袋の表面上部の目立つ位置に表示され,さらにが付されて表示されているものである。これらの本件包装袋におけるが登録商標であることを示す記号として広く使用されていることを考慮すると,取引者及び需要者は,本件包装袋における「ヨーロピアン コーヒー」の二段書き標章が,本件商品の商標として本件包装袋に表示されていると認識し,理解するほかなく,その観念も「ヨーロッパ風のコーヒー」とかあるいは「深煎りの豆を使用したコーヒー」,「苦味が強いコーヒー」又は「コクが強いコーヒー」として認識されるものと認められる。

 (3) 以上によれば,「ヨーロピアン」との標章は,コーヒーあるいはコーヒー豆に使用されている場合は,ほかに強い自他商品識別機能を有する商標と併用されているときには,単なる品質を表示するものとして使用されていると解される場合が多いものの,本件包装袋における「ヨーロピアン コーヒー」の二段書き標章のように,他の自他商品識別機能の強い商標と併用されることなく,単独で使用され,かつ,他の文字に比べると大きく,商品の目立つ位置に表示され,さらにが付されて表示されているときには,それ程強いものではないけれども,一応自他商品識別機能を有する商標として使用されているものと認められる。

 (4) 原告は,本件包装袋における「ヨーロピアン コーヒー」の二段書き標章ないしその中の「ヨーロピアン」との表示は,当該商品が,深煎りの豆を使用したコーヒーであるなどというコーヒーの味等の品質を有するインスタントコーヒーであると認識されるものであり,自他商品を識別する機能を有する商標としての使用とは認められない,と主張する。
 しかし,「ヨーロピアン コーヒー」の二段書き標章からは,「ヨーロッパ風のコーヒー」とか深煎りの豆を使用したコーヒー等の観念が生じるとしても,本件包装袋には,同標章のほかには,自他商品識別機能を有する商標として表示されたものはないだけでなく,「ヨーロピアン コーヒー」の二段書き標章は,他の文字に比べると大きく,本件包装袋の表面上部の目立つ位置に表示され,さらにが付されて表示されているのであるから,同商標に一応の自他商品識別機能があることは前記認定のとおりである。したがって,本件包装袋における「ヨーロピアン コーヒー」の二段書き標章の使用を自他商品識別機能のない商標としての使用であるとまでいうことはできず,原告の主張を採用することはできない。

3 本件包装袋に使用された「ヨーロピアン コーヒー」の二段書き標章は,本件商標と社会通念上同一の商標であるか。
 被告が本件包装袋に使用している「ヨーロピアン コーヒー」の二段書き標章についても,「コーヒー」は,本件商品の名称に過ぎないものであるから,自他商品識別機能が全くないことは明らかである。そうすると,本件包装袋に使用された「ヨーロピアン コーヒー」の二段書き標章に一応の自他商品識別機能があるのは,「ヨーロピアン」の標章によるものである。よって,本件包装袋における「ヨーロピアン コーヒー」の二段書き標章の使用は,「コーヒー」が商品の名称に過ぎない以上,本件商標である「ヨーロピアン」を単独で使用した場合と同様に解することができ,本件商標と社会通念上同一の商標の使用であると解すべきである。

  4 結論
 以上によれば,被告は,本件審判請求の登録前3年以内に日本国内においてその指定商品であるコーヒー等について本件商標と社会通念上同一と認められる商標を使用したことを証明したとする審決の判断に誤りはなく,原告が主張する取消事由はいずれも理由がない。よって,原告の本件請求は理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。

検 討

 判決に賛成。

 「ヨーロピアン(European)」という言葉は、「ヨーロッパ人の、ヨーロッパ風の」という意味を有する言葉としてわが国で普通に使用されており、指定商品「コーヒー」である取引の実情を考慮すると、「ヨーロピアン」は、「フレンチロースト」や「イタリアンロースト」などのような焙煎が深炒りの豆を使ったヨーロッパ風の濃いコーヒーをいう。したがって、指定商品について、本願商標は決して識別力が強い商標ではない。
 しかしながら、(1) 使用証拠として提出された商品には、本件商標が大きく表示され、その右肩にⓇ記号が付されていたこと、(2) 他に識別力を表示する標章が表されていなかったことから、登録商標の使用を認定した。

 この判決から、商標権者は、登録商標の使用に際して、Ⓡ記号を付して使用することが大切であることが確認できる。また、本件商標権者は、「ヨーロピアン」商標が普通名称とならないように努めることが重要であろう。

以 上

2015年9月11日金曜日

薬剤成分の略称表示の商標権侵害の成否[PITAVA(ピタバ)事件] (その5)

 いわゆる「ピタバ事件」の知財高裁の判決(知財高裁判 H27・9・9 H26(ネ)10137号)がでました。5件目の高裁判決と思います。
 原告(控訴人)は、薬について商標「PITABA」の商標権者であり、ピタバスタチンカルシウムを有効成分とするコレステロール低下薬の後発医薬品メーカーです。競合会社が錠剤やシートに「ピタバ」を付した薬を販売したので、複数のメーカーや販売者に対して商標権侵害で訴えたもののなかの1つの高裁判決です。

 原審は、東京地裁平成26年(ワ)第767号です。原審では、
 「被告各商品に付された被告各標章は,商標としての自他商品識別機能若しくは出所表示機能を果たす態様で使用されているということはできず,本件商標の「使用」に該当すると認めることはできない。」
と判旨し、原告の請求を棄却しました。
 そこで、原告(控訴人)は、本件登録商標を、指定商品を
 (1) 「薬剤但し,ピタバスタチンカルシウムを含有する薬剤を除く」とするものと、
 (2) 「ピタバスタチンカルシウムを含有する薬剤」と、
に分割して、(2)に基づいて控訴したものです。


判旨:

 『被控訴人各標章は,本件商標の指定商品の品質,原材料を普通に用いられる方法で表示したものにすぎないと認められるから,商標法26条1項2号及び同項本文により,本件商標権の効力は,被控訴人各標章には及ばないというべきである。』

1. 被控訴人各標章の表示が指定商品等の品質等の普通に用いられる方法での表示(商標法26条1項2号)に該当するか(争点3)

 (1) 被控訴人各商品の取引者・需要者について

 被控訴人各商品は,いずれも医療用医薬品であるから,医師,薬剤師等の医療従事者がその取引者・需要者に当たることは明らかである。
 次に,患者について検討すると,被控訴人各商品は処方箋医薬品に指定されているから,患者は,原則として,医師等の処方に基づいてその供給を受けることになるものの,被控訴人各商品の購入者(エンドユーザー)であり,また,患者が医師に処方薬の希望を伝えたり,患者の選択に基づいて薬剤師が被控訴人各商品を調剤したりすることもないわけではない(甲10,11)。また,錠剤に付されている刻印や印刷は,薬剤の誤使用を避ける目的でされているところ,いかなる薬剤であるかを最後に確認するのは,それを服用しようとしている患者自身であることに鑑みれば,患者もまた被控訴人各商品の取引者・需要者であるとして検討するのが相当である。

 (2) 被控訴人各標章の表示が商品の品質等の普通に用いられる方法での表示に該当するといえるか

 医療従事者を主たる構成員とする学会における研究発表や,医療用医薬品に係る特許公開公報等において,ピタバスタチンないしピタバスタチンカルシウムにつき,「スタチン」ないし「statin」以降を省略した「ピタバ」ないし「PITAVA」という表現が使用されていることが認められる(乙6ないし10,14,15,43,45)。そして,こうした研究発表や特許公開公報等において,字数やスペース等の制限などから,敢えてその場限りのものとして「スタチン」ないし「statin」以降を省略した表現を用いざるを得なかったと認めるに足りる事情はうかがわれない。また,Hmg-CoA還元酵素阻害薬には,ピタバスタチンのほかアトルバスタチン,フルバスタチン,ロバスタチン等があり,これらはスタチン又はスタチン系薬剤と総称されているところ,ピタバスタチンないしピタバスタチンカルシウムについても当該総称部分よりも前の部分である「ピタバ」をその略称として用いることはごく自然であることに鑑みれば,「ピタバ」は医療従事者の間においてピタバスタチンないしピタバスタチンカルシウムの略称として一般的に使用されているものと認めるのが相当である。

 さらに,錠剤に識別コードとして会社コード及び製品コードが刻印又は印刷されることや,医療用後発医薬品の販売名には,原則として含有する有効成分に係る一般的名称が使用されていることは,医療従事者の間において周知の事実であるといえること,及び,前記認定の被控訴人各標章の使用態様,包装態様からすれば,医療従事者が被控訴人各商品に付されている被控訴人各標章に接したときには,これらを被控訴人各商品の有効成分の略称であり,これを普通に用いられる方法で表示しているものと認識すると認められる。
 そうすると,被控訴人各標章は,本件商標権の指定商品である「ピタバスタチンカルシウムを含有する薬剤」の有効成分の一般的名称の略称である「ピタバ」を,普通に用いられる方法で表示しているものにすぎず,この点は,医療従事者において明確に認識されているものと認められる。

 また,被控訴人各商品は処方箋医薬品であって,患者は,原則として,医師等の処方に基づいて被控訴人各商品の交付を受けるから,その有効成分が何であるかについて十分な知識を有しているとは限らず(医師及び薬剤師が患者に交付する処方箋及び薬剤情報説明書には,薬剤の販売名がほぼ例外なく記載されているものの,必ずしもその有効成分が明記されているとはいえず(甲25,乙38),医師等が患者に薬剤の有効成分についてまで説明をするのが通常であると認めるに足りる的確な証拠もない。),その他,前記認定の被控訴人各商品の販売名,PTP包装シートの外観,記載内容,文字等の体裁などをみても,患者が被控訴人各標章に接したときに,被控訴人各商品の有効成分又はその略称であると認識する可能性が高いということはできない。

 もっとも,被控訴人以外の多くの製薬会社からピタバスタチンカルシウムを有効成分とする薬剤が販売されているところ,医療用後発医薬品の販売名には,原則として有効成分の一般的名称を用いることとされているから,おのずから被控訴人各商品と有効成分名において共通する販売名で当該薬剤が販売されることになる(乙39)。そのため,販売名をもって被控訴人各商品と他の製薬会社から販売されている薬剤とを区別するには,各販売名の後部に付された会社名等の部分によらざるを得ない。このことは,被控訴人各商品が処方される際,医師及び薬剤師から交付される処方箋及び薬剤情報説明書に,有効成分の一般的名称である「ピタバスタチンCa」と被控訴人の登録商標である「MEEK」を結合させた販売名の形式で薬剤の名称が記載されていることからも明らかである(乙38)。

 そして,患者が被控訴人各標章を目にするのは,市場において流通している多数の薬剤の中から被控訴人各商品を選択する際ではなく,上記のような取引態様によって被控訴人商品の交付を受けた後,PTP包装シートや一包化された袋から被控訴人各商品を取り出して服用するまでの短時間かつ限定された機会にすぎない。』

 『以上のような被控訴人各商品を含む医療用後発医薬品の販売名に係る実情や,被控訴人各商品の通常想定される取引態様,被控訴人各標章の表示の態様などに鑑みれば,被控訴人各標章は,取引者・需要者の一部である患者がこれを被控訴人各商品の有効成分の略称であると認識する可能性がそれ程高くないとしても,被控訴人各商品が医師の処方箋に基づいて患者へ譲渡されるものであり,その処方箋取引において重要な役割を果たしている医師,薬剤師などの医療従事者において,これが本件商標の指定商品の薬剤の有効成分の略称として表示されていることが明確に認識されている以上,客観的にみればこれを本件商標の指定商品の品質,原材料を普通に用いられる方法で表示する商標と認めるのが相当である。上記のような取引の実情に鑑みれば,患者の一部において,被控訴人各標章が被控訴人各商品の有効成分の略称であることを認識していないことが,上記認定を妨げるものではない。』

 (3) 小括

 以上によれば,被控訴人各標章は,本件商標の指定商品の品質,原材料を普通に用いられる方法で表示したものにすぎないと認められるから,商標法26条1項2号及び同項本文により,本件商標権の効力は,被控訴人各標章には及ばないというべきである。
 したがって,その余の争点について判断するまでもなく,控訴人の請求はいずれも理由がない。』


検討:

 本判決に賛成です。ただし、判旨に一部が疑問あります。

 (1) 取引者・需要者について

 本判決は、医師,薬剤師等の医療従事者のみならず、患者も需要者に該当すると認定しました。その理由は次のとおりです。
 『・・・,患者は,原則として,医師等の処方に基づいてその供給を受けることになるものの,被控訴人各商品の購入者(エンドユーザー)であり,また,患者が医師に処方薬の希望を伝えたり,患者の選択に基づいて薬剤師が被控訴人各商品を調剤したりすることもないわけではない(甲10,11)。また,錠剤に付されている刻印や印刷は,薬剤の誤使用を避ける目的でされているところ,いかなる薬剤であるかを最後に確認するのは,それを服用しようとしている患者自身であることに鑑みれば,患者もまた被控訴人各商品の取引者・需要者であるとして検討するのが相当である。』
 妥当です。これまでの高裁判決も該当商品の取引者・需要者に患者が含まれると認定しています。

 (2) 商品の原材料を普通に用いられる方法で表示しているか(商標法26条1項2号の該当性)

 しかしながら、患者に対して、被控訴人の商品(薬剤)の原材料を普通に用いられる方法で表示したものにすぎないと認められるのかについての理由は疑問です。
 『患者が被控訴人各標章に接したときに,被控訴人各商品の有効成分又はその略称であると認識する可能性が高いということはできない。』つまり,患者が「スタバ」を原材料の略称とは認識しないことがあると認定しつつ,『患者が被控訴人各標章を目にするのは,市場において流通している多数の薬剤の中から被控訴人各商品を選択する際ではなく,上記のような取引態様によって被控訴人商品の交付を受けた後,PTP包装シートや一包化された袋から被控訴人各商品を取り出して服用するまでの短時間かつ限定された機会にすぎない』と判断しています。

 患者が薬を購入するときPTP包装シートから被控訴人標章を視認することができるのであれば、患者に対しては、商品を購入する時点で自他商品識別力を発揮し得るということができるのでしょう。

 (3) 商標的使用

 原判決は、いわゆる商標的使用でないという理由で請求を棄却しました。

 『被控訴人各商品である錠剤に付された「ピタバ」という被控訴人各標章は,医薬品の販売名等の類似性に起因する調剤間違いや患者の誤飲等の医療事故を防止する目的で,被控訴人各商品の有効成分がピタバスタチンカルシウムであることの注意を喚起するためにその略称を錠剤の表面に記載したものであると認められ,被控訴人各商品のような医療用医薬品の主たる取引者,需用者である医師や薬剤師等の医療関係者及び患者が被控訴人各商品に接したときにも,被控訴人各商品に付された被控訴人の会社コードでありかつ登録商標でもある「MEEK」等の表示と相まって,そのような表記として認識されると認めるのが相当である。
 したがって,被控訴人各商品に付された被控訴人各標章は,商標としての自他商品識別機能若しくは出所表示機能を果たす態様で使用されているということはできず,本件商標の「使用」に該当すると認めることはできない。』

 しかしながら、本判決では、この争点については判断しませんでした。被控訴人が、被控訴人各標章の表示が商標的使用でない(商標法26条1項6号)ことを主張立証できていなかったからかも知れません。

2015年9月5日土曜日

薬剤成分の略称表示の商標権侵害の成否[PITAVA(ピタバ)事件] (その4)

 いわゆる「ピタバ事件」の知財高裁の判決(知財高裁判 H27・8・27 H26(ネ)10138号)がでました。4件目の高裁判決と思います。
 原告(控訴人)は、薬について商標「PITABA」の商標権者であり、ピタバスタチンカルシウムを有効成分と するコレステロール低下薬の後発医薬品メーカーです。競合会社が錠剤やシートに「ピタバ」を付した薬を 販売したので、複数のメーカーや販売者に対して商標権侵害で訴えたもののなかの1つの高裁判決です。

 原審は、東京地裁平成26年(ワ)第768号です。原審では、
 「被告各商品に付された被告各標章に接した需要者等は,特に上記称呼の同一性により,本件商標との間で商品の出所に混同を来すおそれがあるということができる。」つまり、商標(標章)は類似すると。しかしながら、「商標登録の取消審判請求がされ,当該商標登録が取り消されるべきことが明らかな場合には,不使用取消制度及び商標権制度の趣旨に照らし,その商標登録に係る商標権に基づく差止め請求は権利の濫用に当たり許されないと解される。したがって,原告による本件商標権の行使は権利の濫用に当たり許されないと判断することが相当である。」
と判旨し、原告の請求を棄却しました。
 そこで、原告(控訴人)は、本件登録商標を、指定商品を
 (1) 「薬剤但し,ピタバスタチンカルシウムを含有する薬剤を除く」とするものと、
 (2) 「ピタバスタチンカルシウムを含有する薬剤」と、
に分割して、(2)に基づいて控訴したものです。


判旨:

 『被控訴人各商品の錠剤に付された被控訴人各標章は,「需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができる態様により使用されていない商標」(商標法26条1項6号)に該当し,また,商品の「原材料」又は「品質」を「普通に用いられる方法で表示する商標」(同項2号)に該当するものと認められ,控訴人が有する本件分割商標権の効力は被控訴人各標章に及ばないものと認められるから,控訴人の当審における交換的変更に係る請求は,いずれも理由がないものと判断する。』

1. 商標法26条1項6号該当性(争点2)

 『医師,薬剤師等の医療従事者であれば,「スタチン系薬」又は「スタチン系化合物」を説明する文献又は文脈の中で,上記表記がされた場合,それらが「ピタバスタチン」,「アトルバスタチン」,「ロスバスタチン」等を意味することを理解すること, ・・・ 
 上記認定事実によれば,被控訴人各商品の錠剤に付された「ピタバ」の表示(被控訴人各標章)は,有効成分である「ピタバスタチンカルシウム」について,その塩に関する部分(「カルシウム」)の記載及び「スタチン」の記載を省略した「略称」であることが認められる。
 そして,医師,薬剤師等の医療従事者の間においては,後発医薬品の販売名は含有する有効成分に係る一般的名称に剤型,含量及び会社名(屋号等)から構成されていることは一般的に知られているものと認められるから,医療従事者が,被控訴人各商品に接した場合,被控訴人各商品が「ピタバスタチンCa錠1mg「サワイ」」等を販売名とする後発医薬品であることを認識し,被控訴人各商品の錠剤に付された「ピタバ」の表示(被控訴人各標章)は,有効成分である「ピタバスタチンカルシウム」の略称であることを認識するものと認められる。

 一方で,患者においては,PTPシートに入れられた状態で被控訴人各商品の交付を受けた場合,PTPシートから被控訴人各商品を取り出して服用する際に,PTPシートに記載された「ピタバスタチンカルシウム」等の表示が自然に目に触れ,被控訴人各商品は「ピタバスタチンカルシウム」が含有された錠剤であること認識するものと認められるから,被控訴人各商品の錠剤に付された「ピタバ」の表示(被控訴人各標章)は,被控訴人各商品の含有成分を略記したものであることを理解するものと認められる。

 また,被控訴人各商品は,医師等の処方箋により使用する「処方箋医薬品」であり(前記1(1)イ(ア)),被控訴人各商品と他の薬剤とが一つの袋にまとめて包装される「1包化調剤」により処方される場合があるが,この場合,患者は,1包化した袋を開封し,その袋内に薬剤が入ったままの状態で服用するので,被控訴人各商品の錠剤に付された「ピタバ」の表示を認識することはないのが通常である。もっとも,患者は,1包化した袋からいったん薬剤を取り出して服用する場合もあるが,その際には,取り出した薬剤を一緒に服用すべきひとまとまりの薬剤として認識し,個々の薬剤の表示が目に触れたとしても,その表示が薬剤の出所を示すものと理解することはないものと認められる
 以上によれば,被控訴人各商品の需要者である医師,薬剤師等の医療従事者及び患者のいずれにおいても,被控訴人各商品に付された「ピタバ」の表示(被控訴人各標章)から商品の出所を識別したり,想起することはないものと認められるから,被控訴人各商品における被控訴人各標章の使用は,商標的使用に当たらないというべきである。

 したがって,被控訴人各標章は,「需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができる態様により使用されていない商標」(商標法26条1項6号)に該当するものと認められる。』


2. 商標法26条1項2号該当性(争点3)

 『前記2(1)ア認定のとおり,被控訴人各商品の錠剤に付された「ピタバ」の表示(被控訴人各標章)は,有効成分である「ピタバスタチンカルシウム」について,その塩に関する部分(「カルシウム」)の記載及び「スタチン」の記載を省略した「略称」であることが認められる。
 そして,前記2(1)イ認定のとおり,医師,薬剤師等の医療従事者の間においては,後発医薬品の販売名は含有する有効成分に係る一般的名称に剤型,含量及び会社名(屋号等)から構成されていることは一般的に知られているものと認められるから,医療従事者が,被控訴人各商品に接した場合,被控訴人各商品が「ピタバスタチンCa錠1mg「サワイ」」等を販売名とする後発医薬品であることを認識し,被控訴人各商品の錠剤に付された「ピタバ」の表示(被控訴人各標章)は,有効成分である「ピタバスタチンカルシウム」の略称であることを認識するものと認められる。
 そうすると,被控訴人各商品の需要者である医療従事者においては,被控訴人各商品に付された被控訴人各標章は,被控訴人各商品の「有効成分」を表示したものであるとともに,被控訴人各商品には原材料として「ピタバスタチンカルシウム」を含有することを表示したものと理解するものと認められる。

 次に,前記2(1)イ認定のとおり,患者においては,PTPシートに入れられた状態で被控訴人各商品の交付を受けた場合,PTPシートから被控訴人各商品を取り出して服用する際に,PTPシートに記載された「ピタバスタチンカルシウム」等の表示が自然に目に触れ,被控訴人各商品は「ピタバスタチンカルシウム」が含有された錠剤であること認識するものと認められるから,被控訴人各商品の錠剤に付された「ピタバ」の表示(被控訴人各標章)は,被控訴人各商品の含有成分を略記したものであることを理解するものと認められる。

 以上によれば,被控訴人各商品の錠剤に付された被控訴人各標章は,商標法26条1項2号に該当するから,控訴人が有する本件分割商標権の効力は,被控訴人各標章に及ばないというべきである。』


検討:

 本判決に賛成です。ただし、判旨に一部が疑問あります。
 医師,薬剤師等の医療従事者が,原材料として「ピタバスタチンカルシウム」を含有することを表示したものと理解するものと認識し、「ピタバ」がその略称であると理解すると考えます。

 しかしながら、患者が,薬を服用する際に「ピタバ」の表示が薬の原材料の含有成分を表示すると理解することはないでしょう。

 一方、被控訴人は、
 「商標法26条1項6号は,商標は本来的には自他商品等の識別のために使用すべきものであるから,本来保護すべき範囲以上の権利を商標権者に与えるような事態や,当該商標権者以外による商標の使用が必要以上に自粛されるような事態等の発生をあらかじめ防ぐため,いわゆる商標的使用がされていない商標,すなわち,需要者が,取引の時点において,同一の商標が使用されている商品又は役務の出所が同一であると認識できる態様(自他商品識別機能・出所表示機能を果たす態様)で使用されていない商標には,商標権の効力が及ばないことを明らかにしたものと解される。」
と本号の趣旨を説明し,需要者としては、
 「患者は,他の医薬品と自ら対比等をすることなく,医師による指示に基づいてのみ医療用医薬品を購入するから,処方箋医薬品の取引者,需要者には含まれない。特に医療用後発医薬品(ジェネリック医薬品)は,先発医薬品(新薬)の特許期間満了後,有効成分や製法等が国民共有の財産となった後に販売される医薬品であり,同じ成分の他社製品が数多く出回ることとなるため,医療機関や薬局の多くは,一つの有効成分に対して後発医薬品を1種類に絞って在庫を準備しているのが現状であり,患者は先発医薬品か後発医薬品のいずれかの購入を希望するかどうかを決定する機会を与えられることはあっても,後発医薬品の中の銘柄を指定又は希望することはできない。」
という理由で、医師,薬剤師等の「医療関係者」のみが,取引者,需要者であると主張しています。
 被控訴人の主張は、論理的に矛盾がありません。

 控訴人は、
 「商標法26条1項6号は,「前各号に掲げるもののほか,需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができる態様により使用されていない商標」と規定しており,その文言から,同号が問題となる場面が「取引の時点」に限定されると解する余地はない。たとえ需要者が商品を購入する時点において,当該表示が包装等により需要者の目に触れないとしても,需要者が,当該商品を使用する過程で目に触れる表示であれば,需要者は,当該商品を使用する過程において,当該商品に付された表示を繰り返し目にすることにより,当該商品の出所や品質と当該表示との関連性を認識・評価し,当該表示についてのイメージを形成するから,当該表示は商標として使用されているといえる。」
と主張しています。
 商品の識別力は「取引の時点」で発揮されることが必要であると解する,筆者は,上記控訴人の主張に反対であるが,判旨から判断すると、裁判所は,控訴人の主張を採用しているように考えられる。患者は、商品購入時に商品選別の決定権を有する点からは需要者に含まれるが、「服用する際」ではなく、商品を購入する際(「取引の場」)では本件商標を視認することができないため、需要者には含まれないのではないでしょうか。