2019年4月19日金曜日

特許や商標登録出願の出願人について

ペンネーム、芸名、雅名等の変名や、 通称名で出願をすることはできません。
権利能力(権利の主体となることができる資格)を有していることが必要です。
したがって、出願人が自然人(個人)の場合、 氏名については戸籍上のものを願書に記載します。
個人事業者が、その屋号(○○商店) 等により出願することも認められていません。この場合、個人名義で出願をすることとなります。民法で定める「権利能力」を有することが必要です。

出願人について
(1) 権利能力(権利の主体となることができる資格)を有していること
 ① 自然人(個人)又は法人でなければなりません。
 ⅰ 任意に組織された法人格のない団体は出願人となることができません。
 ⅱ 出願人が自然人(個人)の場合には、氏名は戸籍上のものを記載します。ペンネーム、芸名、雅名等の変名や通称名をもって出願することはできません。
 ⅲ 個人事業者が、屋号(○○商店)等をもって出願することは認められませんので、このような場合は個人名義で出願します。
 ⅳ 出願人が法人の場合には、法人の名称は登記簿等に登記されている名称及び本店住所を正確に記載し、その代表者の氏名を併せて記載します。
 ② 日本国内に住所又は居所(法人にあっては営業所)を有しない外国人は、下記のいずれかの条件に該当する場合を除き、特許権及びその他の特許に関する権利を享有することができません。
 ⅰ その者の属する国において、日本国民に対しその国民と同一の条件により特許権その他の特許に関する権利の享有を認めているとき(相互主義)
 ⅱ その者の属する国において、日本国がその国民に対し特許権その他の特許に関する権利の享有を認める場合には日本国民に対しその国民と同一の条件により特許権その他の特許に関する権利の享有を認めることとしているとき(相互主義)
 ⅲ 条約に別段の定めがあるとき(パリ条約(2、3条)、知的所有権の貿易関連の側面に関する協定(2、3条)又は二国間条約等によって認められる国民)

(2) 手続能力を有していること
 ① 未成年者及び成年被後見人並びに被保佐人(特7)
 ⅰ 未成年者及び成年被後見人は、法定代理人(親権者、後見人等)によらなければ手続をすることができません。ただし、未成年者が独立して法律行為をすることができるときはこの限りではありません。未成年者は原則父母が共同で親権者となります(民法818(3))。
 ⅱ 被保佐人が手続をする場合には、保佐人の同意を得なければなりません。
 ⅲ 法定代理人が手続をする場合で、後見監督人があるときは、その同意を得なければなりません。
 ⅳ これら手続能力のない者のした手続は、追認することができます(特16)。
 ② 在外者(特8(1))(日本国内に住所又は居所(法人にあっては営業所)を有しない者)
 在外者は、特許管理人(日本国内に住所又は居所を有する代理人)によらなければ、手続をし、又は特許法若しくは同法に基づく命令の規定により行政庁のした処分を不服として訴を提起することができません。ただし、特許願(特許法第44条第1項の規定による特許出願の分割に係る新たな特許出願、同法第46条第1項又は第2項の規定による出願の変更に係る特許出願及び同法第46条の2第1項の規定による実用新案登録に基づく特許出願を除く。)、先の特許出願を参照する旨の特許出願における先の特許出願の認証謄本を提出する物件提出書及び欠落補完における優先権主張基礎出願の写しを提出する物件提出書の提出は除きます(特施令1、特施規4の4)。

(3) 特許を受ける権利を有していること
 ① 特許出願人がその発明について特許を受ける権利を有していないときは、当該出願は拒絶されます(特49⑦)。
 ② 特許を受ける権利は、移転することができます(特33(1))。
 ③ 特許出願前の特許を受ける権利の承継は、その承継人が特許出願をしなければ、第三者に対抗することができません(特34(1))。
 ④ 特許を受ける権利が共有に係るときは、各共有者は、他の共有者と共同でなければ特許出願をすることができません(特38)。
 ⑤ 特許を受ける権利が共有に係るときは、各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、その持分を譲渡することができません(特33(3))。

2019年1月13日日曜日

二段書き登録商標と使用商標の同一性 ブロマガ/BlogMaga いわゆる二段書き登録商標の上段部分(「ブロマガ」)のみの使用は、当該登録商標と社会通念上同一と認められる商標の使用には該当しないと判断された。

知財高裁判 H30・12・20 H30(ケ)10103号 商標権審決取消請求事件

事実の概要

1 本件は,エフシーツーインク(原告X)が有する商標権について,株式会社ドワンゴ(被告Y)が商標法50条に基づき不使用取消審判請求をしたところ,特許庁が商標登録を取り消すとの審決をしたため,Xが審決の取消を求めた事案である。

2 事実の概要

 (1) Xは,次の商標(以下「本件商標」という。)の商標権者である
  登録番号  第5621414号
  登録出願日 平成24年9月13日
  設定登録日 平成25年10月11日
  登録商標  ブロマガ/BlogMaga
  指定商品(役務)
   第42類 インターネット等の通信ネットワークにおけるホームページの設計・作成又は保守,インターネット等の通信ネットワークにおけるホームページの設計・作成又は保守に関するコンサルティング,インターネット等の通信ネットワークにおけるホームページの設計・作成又は保守に関する情報の提供,インターネット等の通信ネットワークにおける情報・サイト検索用の検索エンジンの提供,インターネット等の通信ネットワークを利用するためのコンピュータシステムの設計・作成又は保守に関するコンサルティング,インターネット等の通信ネットワークを利用するプログラムの設計・作成又は保守,コンピュータにおけるウィルスの検出・排除及び感染の防止・パスワードに基づくインターネット情報及びオンライン情報の盗用の防止並びにコンピュータにおけるハッカーの侵入の防止等の安全確保のためのコンピュータプログラムによる監視,インターネットサイトにおけるブログ検索用の検索エンジンの提供,インターネットにおけるブログのためのサーバーの記憶領域の貸与,ウェブログの運用管理のための電子計算機用プログラムの提供,ウェブログ上の電子掲示板用サーバの記憶領域の貸与及びこれに関する情報の提供,オンラインによるブログ作成用コンピュータプログラムの提供又はこれに関する情報の提供,インターネットホームページを閲覧するための電子計算機の貸与,インターネット上で利用者が交流するためのソーシャルネットワーキング用サーバコンピュータの記憶領域の貸与,インターネット上の情報を閲覧するためのコンピュータプログラムの提供,インターネット等の通信ネットワークにおいて利用可能な記憶装置の記憶領域の貸与
(なお,平成28年7月11日に,上記指定役務中,「ウェブログの運用管理のための電子計算機用プログラムの提供,オンラインによるブログ作成用コンピュータプログラムの提供,インターネット上の情報を閲覧するためのコンピュータプログラムの提供」についての登録を無効とする旨の審決の確定登録がされた。)
 (2) Yは,本件商標の登録取消審判請求をし,特許庁は,これを取消2016-300722号事件として審理した。取消審判請求の登録日は平成28年10月31日である。

 (3) 特許庁は,平成30年3月22日,「登録第5621414号商標の指定役務中,第42類「インターネット等の通信ネットワークにおけるホームページの設計・作成又は保守,インターネット等の通信ネットワークにおけるホームページの設計・作成又は保守に関するコンサルティング,インターネット等の通信ネットワークにおけるホームページの設計・作成又は保守に関する情報の提供,インターネット等の通信ネットワークにおける情報・サイト検索用の検索エンジンの提供,インターネット等の通信ネットワークを利用するためのコンピュータシステムの設計・作成又は保守に関するコンサルティング,インターネット等の通信ネットワークを利用するプログラムの設計・作成又は保守,コンピュータにおけるウィルスの検出・排除及び感染の防止・パスワードに基づくインターネット情報及びオンライン情報の盗用の防止並びにコンピュータにおけるハッカーの侵入の防止等の安全確保のためのコンピュータプログラムによる監視,インターネットサイトにおけるブログ検索用の検索エンジンの提供」についての商標登録を取り消す。」旨の審決(以下「本件審決」という。また,取消しに係る役務を「取消対象役務」という。)をし,出訴期間として90日を附加した。
 (4) Xは,平成30年7月23日,本件審決の取消しを求めて本件訴訟を提起した。

 (5) 本件審決の理由の要旨
 Xの使用する,「ブロマガ」の文字からなる商標は,本件商標と社会通念上同一の商標とはいえず,商標法50条に規定する「登録商標」に当たらないし,また,Xは,上記Xの使用する商標を「インターネット検索エンジンの提供」などの取消対象役務に使用していないため,Xが,登録に係る登録商標を取消審判請求の登録前3年以内(以下「要証期間」という。)に取消対象役務について使用したことの証明がないから,本件商標の取消対象役務に係る登録は商標法50条により取り消されるべきである。

判 旨

 控訴棄却。
 本件の争点は、(1) 本件商標と使用標章が同一といえるか,(2) 本件商標を本件商標の登録にかかる役務について使用しているである。本判決は,商標が同一でなく,また,取消対象役務について使用していないとして,本件商標の商標登録を取り消すとした審決を維持した。

 商標の使用について

 (1) 平成28年4月30日当時,Xのウェブサイト(「FC2ブログ>ブロマガランキング」のページ)において,上部に,馬のようなマークの横に太字のゴシック体風の文字で「FC2」,「ブロマガ」の文字が並べて表示されていた。また,本文の最上部に「ブロマガランキング」と表示されていた。このウェブサイトのURLには「blomaga」という文字が含まれていた。上記ウェブサイトの中央部分には,「ブロマガランキング」の文字の下に,1位から順にブログのタイトルが列挙され,ウェブサイトの右側部分には,「ブロマガ検索」との表示の下に「月間ブロマガ」と「単体ブロマガ」を選択するボタン,「キーワード」,「ジャンル」,「価格」,「表示順」の入力ないし選択ウィンドウが配置され,最下段には「検索」ボタンが配置されていた。
 上記ウェブサイトは,「ブロマガ」というサービスの対象である有料で閲覧できるブログ記事のランキングを示したものであり,「ブロマガ検索」は,「ブロマガ」というサービスの対象である有料のブログ記事の検索を行うものであるが,Xが提供するFC2ブログに含まれる有料のブログ記事を対象としたものであって,それ以外のウェブサイトの検索をする機能は提供されていない。
 (2) 上記(1)に認定した事実によれば,Xは,平成28年4月当時,電磁的方法により行う映像面を介した役務の提供に当たり,その映像面に「ブロマガ」の文字からなる商標(以下「本件使用商標」という。)を表示して役務を提供していたものであるから,Xは要証期間内に本件使用商標を使用していたものと認められる。

 商標の同一性について

 (1)ア 本件商標は,前記第2の1(1)のとおり,ゴシック体風の「ブロマガ」の片仮名とセンチュリー体風の「BlogMaga」の欧文字を上下2段に配置した商標であり,上段と下段の間は文字の高さの半分程度の間隔があり,上段と下段のフォントの大きさは概ね同じで,上段より下段の方がやや横幅が大きく構成されている。
 上段の「ブロマガ」部分からは,「ブロマガ」という称呼が生じる。また,下段の「BlogMaga」部分は,「Maga」が大文字の「M」で始まること,「dog」,「frog」のような「og」の語尾を持つ一般的な英語で「g」の発音を省略することはないこと,「Blog」はウェブログの省略語として浸透している「ブログ」を想起させることから,全体として「ブログマガ」という称呼が生じるものと認められる。そうすると,本件商標からは,「ブロマガブログマガ」という称呼が生じるといえる。
 また,「ブロマガ」及び「BlogMaga」はいずれも造語であり,特段の観念を生じるとは認め難く,本件商標からは特段の観念を生じない。
 イ 他方,本件使用商標は「ブロマガ」の文字のみからなるものであるから,本件商標とは使用する文字の一部が共通するものの,外観,観念及び称呼のいずれについても同一とはいえない。
 ウ 以上に照らせば,本件使用商標について,本件商標の「書体のみに変更を加えた同一の文字からなる商標,平仮名,片仮名及びローマ字の文字の表示を相互に変更するものであって同一の称呼及び観念を生ずる商標,外観において同視される図形からなる商標その他の当該登録商標(本件商標)と社会通念上同一と認められる商標」ということはできない。
 エ また,Xは,XのウェブサイトのURL中の「blomaga」の文字の使用について,本件商標と「社会通念上同一の商標」の「使用」に当たると主張するが,仮にURLにおける「blomaga」の使用が商標法50条1項所定の「商標」の「使用」に当たるとしても,「blomaga」は本件商標と外観,観念及び称呼のいずれにおいても同一とはいえないことは本件使用商標と同様であるから,本件商標と「blomaga」の文字からなる「商標」が「社会通念上同一」であるとは認められない。

 (2) Xの主張について
 ア Xは,欧文字の称呼については,特定の発音に固執せず,ある程度幅のある発音を念頭に,日本における一般的な認識や連想等を含めて,総合的に判断すべきであるとして,「HongKong」,「Pnig-Pong」,「Sign」,「Foreign」のように「g」を発音しない例がしばしば存在する一方,「King Kong」では「g」を発音するという風に日本で欧文字を読む際に「g」を発音する場合と発音しない場合があること,2語からなる外来語や固有名詞等の略語の生成において各語の冒頭の二拍ずつ取るのが基本であることから,本件商標の下段の「BlogMaga」部分は「ブロマガ」の称呼を生じると主張する。
 しかし,Xが指摘する「g」を発音しない例は「ng」,「gn」という語尾を有するから本件商標の欧文字部分には妥当しないし,造語の欧文字である「BlogMaga」からX主張の略語が生じるとも認められない。
 さらに,Xは,社会一般では「BlogMaga」の表記を「ブロマガ」と記載していることが多いと主張するが,Xがその立証のために提出した証拠(甲36~38)から,社会一般において「BlogMaga」を「ブロマガ」と表記していることは認められない。また,上記(1)アのとおりの本件商標の構成からは「ブロマガ」が「BlogMaga」の表音であるとは認め難い。
 イ Xは,「BlogMaga」は,「Weblog」の略語である「Blog」と雑誌を意味する「Magazine」の略語である「Maga」が結合された造語であり,いろいろなブログを配信するサービスという観念が生じ,「ブログ」と「マガジン」の略語が結合した「ブロマガ」からも,いろいろなブログを配信するサービスという観念が生じるから,「BlogMaga」と「ブロマガ」から生じる観念は同一であると主張する。
 しかし,本件商標の「ブロマガ」は4文字の造語で,同種同大のフォントが均等の間隔で配置されていることからすれば,「ブロ」の部分を分離して観念を想起し得るかは疑問であり,「ブロマガ」からブログとマガジンの略語の結合を想起するとはいえない。したがって,「BlogMaga」と「ブロマガ」がブログとマガジンの略語が結合したものとして理解され,同一の観念を生じさせるとは認められない。
 Xは,「ブロマガ」と「BlogMaga」がいずれもXのサービスを示すものとして,同一の観念を生じさせるとも主張するが,Xのサービスが「BlogMaga」と認識されていたことを示す的確な証拠はないし,Xが需要者の間でXのサービスは「ブログマガ」とは認識されていなかったと主張していることからしても,Xの上記主張は採用できない。なお,Xは,「ブロマガ」はXのサービスを示すものとして周知であったとも主張するが,このことから,「BlogMaga」と「ブロマガ」から同一の称呼及び観念を生じることにはならない。

3 以上のとおり,取消対象役務について本件商標の商標登録を取り消すべきであるとした本件審決に誤りはなく,Xの請求は理由がないからこれを棄却する。

検 討

 本判決に賛成。

 ウェブサイトにて使用されている標章「ブロマガ」が登録商標(本件商標)と社会通念上同一ではないと判断された。
 つまり、特許庁及び知財高裁のいずれにおいても、いわゆる二段書き登録商標の上段部分「ブロマガ」のみの使用は、当該登録商標の「書体のみに変更を加えた同一の文字からなる商標,平仮名,片仮名及びローマ字の文字の表示を相互に変更するものであって同一の称呼及び観念を生ずる商標,外観において同視される図形からなる商標その他の当該登録商標と社会通念上同一と認められる商標」には該当しないため、当該登録の使用には該当しないと判断された。
 判決の『本件商標からは,「ブロマガブログマガ」という称呼が生じる』といえるとの部分については疑問であるが、結論は妥当であろう。
 本件商標の欧州文字部分が「BlogMaga」ではなく「BloMaga」であった場合に結論がどうなるか興味があるが、二段書き商標を有する商標権者はその使用に注意を要する。

以 上

2018年12月30日日曜日

清酒表示の商標権侵害「白砂青松」 長年他人の使用を知りながら権利行使しなかったことが権利の乱用に当たらないとされた事例

知財高裁判 H30・11・28 H30(ネ)10045号 商標権侵害差止等請求事件

原審東京地裁 H29年(ワ)9779号)

事実の概要

 本件は,「白砂青松」の標準文字からなる原告商標の商標権(以下「本件商標権」という。)を有する被控訴人が,控訴人がその製造する日本酒(被告商品)に控訴人標章1ないし4を付して販売する行為が本件商標権の侵害に該当する旨主張して,控訴人に対し,商標法36条1項に基づき,控訴人各標章を付した日本酒を含む酒類の販売等の差止めを求めるとともに,同条2項に基づき,控訴人各標章を付した日本酒に関する宣伝用ポスター,包装等の廃棄及び控訴人のウェブサイトからの控訴人各標章の削除を求める事案である。

 被控訴人は,原審において,控訴人が被告商品に被告標章を付して販売する行為が本件商標権の侵害に該当する旨主張して,控訴人に対し,同条1項に基づき,「白砂青松」の標章を付した日本酒を含む酒類の販売等の差止めを求めるとともに,同条2項に基づき,「白砂青松」の標章を付した日本酒に関する宣伝用ポスター,包装等の廃棄及び上記ウェブサイトからの「白砂青松」の標章の削除を求めたところ,原判決は,被控訴人の請求を全部認容した。

 控訴人は,原判決を全部不服として控訴を提起し,被控訴人は,附帯控訴の方式により,当審において,差止めを求める対象を,被告標章を付した被告商品の販売等から控訴人各標章を付した被告商品の販売等に変更するなどの訴えの交換的変更をした。
 なお,原判決は,被控訴人の上記訴えの交換的変更により,失効している。

 認定事実

 (1) 原告及び被告商品
 ア 控訴人は,平成11年10月以降,被告商品(表側のラベルに控訴人標章1を,裏側のラベルに控訴人標章3を付した1.8リットル瓶の日本酒及び表側のラベルに控訴人標章2を,裏側のラベルに控訴人標章3を付した720ミリリットルの日本酒)を製造し,販売している。 また,控訴人は,被告商品を収める木箱に控訴人標章4を付している。
 イ 原告は,平成18年5以降,原告商標を付した日本酒を販売している。
また,被控訴人は,同年4月19日,原告商標について,第30類「和菓子」及び第33類「日本酒,焼酎,果実酒」を指定商品として商標登録出願をし,平成19年1月12日,本件商標権の設定登録を受けた。

 (2) 被告商品の広報及び販売状況等
 ア 販売数
 平成22年10月1日から平成27年9月30日までの被告商品の販売数は,720ミリリットル瓶について7900本,1.8リットル瓶について4144本である。
 イ 販売地域
 被告商品の販売地域は,茨城県外にも及んでいるが,その主な販売地域は,茨城県の日立市,水戸市周辺である。
 ウ 販売価格
 原告商品と被告商品の販売価格(現時点)は,720ミリリットル瓶では原告商品が1413円(税込)であるのに対し,被告商品は1994円(税込)であり,1.8リットル瓶では原告商品が2828円(税込)であるのに対し,被告商品は4104円(税込)である。
 エ 被告商品の紹介実績等
 被告商品は,平成11年10月10日付け茨城新聞,同月21日付け読売新聞,平成13年5月21日付け茨城新聞に取り上げられ,平成16年11月10日には新潮社「旅」12月号に取り上げられた。また,被告商品は,平成27年8月27日に発表された「The Wonder 500」プロジェクトにおいて日本を代表する商材500の一つに選定された。さらに,被告は,そのホームページ上に被告商品を掲載し,販売している。

 (3) 本訴に至る経緯
 ア 原告は,平成19年8月20日,被告にメールを送信し,原告が本件商標権を有している旨を指摘し,その後,同年10月にかけて原被告間において協議が行われたが,解決には至らなかった。
 イ 原告は,平成28年2月10日付け通知書をもって,被告に対し,原告訴訟代理人を通じて,「白砂青松」の標章を付した被告商品の製造販売を中止するよう求める旨の通知をした。その後,原被告間で和解交渉が行われたが,合意に至らず,被告は,同年4月27日頃,原告に対し,訴訟での解決を図る旨を通知した。
 ウ 被控訴人は,平成29年3月24日,東京地方裁判所に本件訴訟を提起した。その間の平成28年5月6日,控訴人は,控訴人標章2とほぼ同様の構成の商標について商標登録出願(商願2016-49449号)をした後,平成29年4月24日付けの拒絶査定を受けたため,同年8月18日付けで拒絶査定不服審判を請求した。

判 旨

 控訴棄却。
 本件の争点は、(1) 原告商標と控訴人各標章の類否(争点1),(2) 先使用権の有無(争点2),(3) 権利濫用の抗弁の成否である。本判決は,控訴人各標章はいずれも原告商標に類似する商標に当たるから,控訴人による控訴人各標章を付した被告商品の販売行為等は,本件商標権の侵害に該当するとし、請求を棄却した。

 争点1(本件商標と控訴人各標章の類否)について

 (1) 本件商標と控訴人標章1の類否について

 ア 原告商標は,「白砂青松」の標準文字からなり,原告商標から「ハクサセイショウ」又は「ハクシャセイショウ」の称呼が生じ,「白い砂と青い松」(広辞苑第七版)という観念が生じ,海岸などの美しい風景を連想,想起させる。
 イ(ア) 控訴人標章1は,別紙控訴人標章目録記載1のとおり,図形部分と,その上方に毛筆体で横書きした「大観」の文字部分及び「白砂青松」の文字部分とからなる結合商標である。
 図形部分は,長方形の黒色の枠線の中に,背後に白い山が見える,白い砂浜に松林の続く海岸の風景画を図形化したものであり,図形部分の大きさは,控訴人標章1全体の約5分の4を占めている。
 しかるところ,「大観」の文字部分及び「白砂青松」の文字部分は,図形部分と重なっていないこと,「大観」の文字部分は図形部分の長方形の黒色の枠線からやや離れた上方に配置されていることから,長方形の黒色の枠線で囲まれた図形部分と「大観」の文字部分及び「白砂青松」の文字部分は,明瞭に区別して認識することができる。
 また,図形部分の左下部には毛筆体で縦書きした「大観」の署名及び落款印の印影が表記されており,図形部分は,横山大観作の「白砂青松」という作品名の絵画を図形化したものであることが認められるが(乙68ないし82),横山大観作の上記絵画が,原告商標の指定商品「日本酒」の需要者である一般消費者の間に広く認識されるに至っているものと認めるに足りる証拠はないことに照らすと,需要者の多くは,図形部分の風景画は,「白砂青松」の文字部分から連想,想起させる風景を描いたものと認識することはあっても,横山大観作の上記絵画であると認識するものと認めることはできないし,「大観」の文字部分及び「白砂青松」の文字部分は,図形部分の絵画の作者が横山大観であり,その作品名が「白砂青松」であることを表示するものとして図形部分と一体的な関係にあると認識するものと認めることもできない。
 そうすると,図形部分と「大観」の文字部分及び「白砂青松」の文字部分は,分離して観察することが取引上不自然と思われるほど不可分的に結合しているものとは認められない。
 次に,「大観」の文字部分及び「白砂青松」の文字部分から全体として「タイカンハクサセイショウ」又は「タイカンハクシャセイショウ」の称呼が生じるが,「大観」の文字部分は,控訴人標章1の上方左端に,「白砂青松」の部分は,「大観」の文字部分よりも大きな文字で控訴人標章1の上方中央にそれぞれ表示され,「大観」の文字部分は「白砂青松」の文字部分よりもやや上方に位置していること,「大観」の文字部分を構成する文字と「白砂青松」の文字部分を構成する文字は,字体が異なり,文字の間隔は「白砂青松」の文字部分の方が広いことに照らすと,「大観」の文字部分と「白砂青松」の文字部分は,明瞭に区別して認識することができるから,分離して観察することが取引上不自然と思われるほど不可分的に結合しているものとは認められない。
 そして,「白砂青松」の文字部分は,控訴人標章1の上方中央に毛筆体の大きな文字で表示され,「白砂青松」の文字部分から「ハクサセイショウ」又は「ハクシャセイショウ」の称呼が自然に生じること,「白砂青松」の文字部分の下方に表示された図形部分は,需要者の多くによって「白砂青松」の文字部分から連想,想起させる風景を描いたものと認識されることからすると,控訴人標章1が原告商標の指定商品である日本酒に使用された場合には,控訴人標章1の構成中の「白砂青松」の文字部分は,取引者,需要者に対し,被告商品の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる。
 以上によれば,控訴人標章1から「白砂青松」の文字部分を要部として抽出し,これと原告商標とを比較して商標そのものの類否を判断することも,許されるというべきである。

 (イ) これに対し控訴人は,①控訴人標章1は,被告商品の瓶のラベルに使用されているところ,需要者が店頭で日本酒を購入する場合,日本酒の瓶のラベルにどのような絵柄や文字が記載されているかを確認して商品を識別するから,ラベルに表示されている文字や絵柄は,全体として自他商品識別機能を有しており,しかも,被告商品の瓶のラベルに占める上記絵画部分は,非常に大きいこと,②「大観 白砂青松」の文字部分は,横山大観の自筆のものであり,この文字部分から,通常,横山大観が描いた「白砂青松」という作品名の絵画を連想させるところ,絵画部分は横山大観作の「白砂青松」という作品名の絵画であることからすれば,上記文字部分と上記絵画部分は,分離して観察することが取引上不自然と思われるほど不可分的に結合しているといえるから,控訴人標章1から「白砂青松」の文字部分を抽出し,これと原告商標とを比較して商標そのものの類否を判断することは許されない旨主張する。
 しかしながら,控訴人標章1を構成する図形部分と「大観」の文字部分及び「白砂青松」の文字部分とを明瞭に区別して認識することができることは,前記(ア)認定のとおりである。
 また,上記①の点については,日本酒を購入する場合,瓶のラベルにどのような絵柄や文字が記載されているかを確認することがあるからといって,一般に,ラベルに表示されている文字や絵柄が全体としてのみ自他商品識別機能を有しているということはできない。
 さらに,上記②の点については,仮に控訴人標章1の「大観」の文字部分及び「白砂青松」の文字部分が横山大観の自筆のものであったとしても,そのことが需要者である一般の消費者の間に広く認識されるに至っているものと認めるに足りる証拠はない。また,前記(ア)認定のとおり,需要者の多くは,控訴人標章1の図形部分から,その図形部分の風景画が横山大観作の「白砂青松」という作品名の絵画であると認識するものと認めることはできない
 したがって,控訴人の上記主張は採用することができない。

 (ウ) 次に,控訴人は,「大観」の文字には,横山大観という人物を表す意味があること,「白砂青松」の文字には,横山大観が描いた絵画の作品名としての意味があることに照らすと,上記各文字を並べた「大観白砂青松」の文字部分は,横山大観が描いた「白砂青松」という作品名の絵画という意味となり,「大観」の文字部分と「白砂青松」の文字部分は,分離して観察することが取引上不自然と思われるほど不可分的に結合しているといえるから,控訴人標章1から「白砂青松」の文字部分を抽出し,これと原告商標とを比較して商標そのものの類否を判断することは許されない旨主張する。
 しかしながら,控訴人標章1を構成する「大観」の文字部分と「白砂青松」の文字部分とを明瞭に区別して認識することができることは,前記(ア)認定のとおりである。
 また,前記(ア)認定のとおり,需要者の多くは,控訴人標章1の図形部分から,その図形部分の風景画が横山大観作の「白砂青松」という作品名の絵画であると認識するものと認めることはできない。
 したがって,控訴人の上記主張は採用することができない。

 ウ 原告商標と控訴人標章1の要部である「白砂青松」の文字部分を対比すると,原告商標は,「白砂青松」の標準文字からなるのに対し,控訴人標章1の「白砂青松」の文字部分は,毛筆体の「白砂青松」の文字からなり,字体は異なるが,構成する文字は同一であるあることから,外観において類似するものと認められる。また,原告商標と控訴人標章1の「白砂青松」の文字部分は,いずれも「ハクサセイショウ」又は「ハクシャセイショウ」の称呼が生じる点及び「白い砂と青い松」という観念が生じ,海岸などの美しい風景を連想,想起させる点において同一である。
 したがって,原告商標と控訴人標章1の要部である「白砂青松」の文字部分は,称呼及び観念が同一であり,外観は,同一ではないが,類似するものといえる。
 そうすると,原告商標及び控訴人標章1が原告商標の指定商品である日本酒に使用された場合には,その商品の出所について誤認混同を生ずるおそれがあるものといえるから,控訴人標章1は全体として原告商標に類似する商標であるものと認められる。

 (2) 原告商標と控訴人標章2の類否について

 控訴人標章2は,別紙控訴人標章目録記載2のとおり,図形部分と,その上方に毛筆体で横書きした「大観」の文字部分及び「白砂青松」の文字部分とからなる結合商標である。控訴人標章2は,「大観」の文字部分と「白砂青松」の文字部分が並んで表示され,両文字部分の間には1文字分の間隔があるが,それ以外の構成は,控訴人標章1とほぼ同一である。
 したがって,前記(1)イで説示したのと同様の理由により,控訴人標章2から「白砂青松」の文字部分を要部として抽出し,これと原告商標とを比較して商標そのものの類否を判断することも,許されるというべきである。
 そして,前記(1)ウで説示したのと同様の理由により,原告商標と控訴人標章2の要部である「白砂青松」の文字部分は,称呼及び観念が同一であり,外観は,同一ではないが,類似することからすると,原告商標及び控訴人標章2が原告商標の指定商品である日本酒に使用された場合には,その商品の出所について誤認混同を生ずるおそれがあるものといえるから,控訴人標章2は全体として原告商標に類似する商標であるものと認められる。

 (3) 原告商標と控訴人標章3の類否について

 ア(ア) 控訴人標章3は,別紙控訴人標章目録記載3のとおり,毛筆体で横書きした「大観」の文字部分と「白砂青松」の文字部分とからなる結合商標である。
「大観」の文字部分は,控訴人標章3の左端に,「白砂青松」の文字部分は,控訴人標章3の中央にそれぞれ表示されていること,「大観」の文字部分と「白砂青松」の文字部分との間には1文字分の間隔があること,「大観」の文字部分を構成する文字と「白砂青松」の文字部分を構成する文字は,字体が異なり,文字の間隔は「白砂青松」の文字部分の方が広いことに照らすと,「大観」の文字部分と「白砂青松」の文字部分は,明瞭に区別して認識することができるから,分離して観察することが取引上不自然と思われるほど不可分的に結合しているものとは認められない。
 そして,「白砂青松」の文字部分は,控訴人標章3の中央の目立つ位置に表示され,「白砂青松」の文字部分から「ハクサセイショウ」又は「ハクシャセイショウ」の称呼が自然に生じることからすると,控訴人標章3が原告商標の指定商品である日本酒に使用された場合には,控訴人標章3の構成中の「白砂青松」の文字部分は,取引者,需要者に対し,被告商品の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる。
 以上によれば,控訴人標章3から「白砂青松」の文字部分を要部として抽出し,これと原告商標とを比較して商標そのものの類否を判断することも,許されるというべきである。

 (イ) これに対し控訴人は,「大観」の文字には,横山大観という人物を表す意味があること,「白砂青松」の文字には,横山大観が描いた絵画の作品名としての意味があることに照らすと,上記各文字を並べた「大観 白砂青松」の文字部分は,横山大観が描いた「白砂青松」という作品名の絵画という意味となり,「大観」の文字部分と「白砂青松」の文字部分は,分離して観察することが取引上不自然と思われるほど不可分的に結合しているといえるから,控訴人標章3から「白砂青松」の文字部分を抽出し,これと原告商標とを比較して商標そのものの類否を判断することは許されない旨主張する。
しかしながら,前記(1)イ(ウ)で説示したとおり,控訴人の上記主張は採用することができない。

 イ 前記(1)ウで説示したのと同様の理由により,原告商標と控訴人標章3の要部である「白砂青松」の文字部分は,称呼及び観念が同一であり,外観は,同一ではないが,類似することからすると,原告商標及び控訴人標章3が原告商標の指定商品である日本酒に使用された場合には,その商品の出所について誤認混同を生ずるおそれがあるものといえるから,控訴人標章3は全体として原告商標に類似する商標であるものと認められる。

 (4) 原告商標と控訴人標章4の類否について

 ア(ア) 控訴人標章4は,別紙控訴人標章目録記載4のとおり,毛筆体で縦書きした「大観」の文字部分と「白砂青松」の文字部分とからなる結合商標である。
 「大観」の文字部分は,控訴人標章4の上方右端に表示され,「白砂青松」の文字部分は,「大観」の文字部分よりもかなり大きな文字で控訴人標章4の中央に表示されていること,「大観」の文字部分を構成する文字と「白砂青松」の文字部分を構成する文字は,字体が異なることに照らすと,「大観」の文字部分と「白砂青松」の文字部分は,明瞭に区別して認識することができるから,分離して観察することが取引上不自然と思われるほど不可分的に結合しているものとは認められない。
 そして,「白砂青松」の文字部分は,控訴人標章4の中央の目立つ位置に「大観」の文字部分よりもかなり大きな文字で表示され,「白砂青松」の文字部分から「ハクサセイショウ」又は「ハクシャセイショウ」の称呼が自然に生じることからすると,控訴人標章4が原告商標の指定商品である日本酒に使用された場合には,控訴人標章4の構成中の「白砂青松」の文字部分は,取引者,需要者に対し,被告商品の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる。
 以上によれば,控訴人標章4から「白砂青松」の文字部分を要部として抽出し,これと原告商標とを比較して商標そのものの類否を判断することも,許されるというべきである。

 (イ) これに対し控訴人は,「大観」の文字には,横山大観という人物を表す意味があること,「白砂青松」の文字には,横山大観が描いた絵画の作品名としての意味があることに照らすと,上記各文字を並べた「大観 白砂青松」の文字部分は,横山大観が描いた「白砂青松」という作品名の絵画という意味となり,「大観」の文字部分と「白砂青松」の文字部分は,分離して観察することが取引上不自然と思われるほど不可分的に結合しているといえるから,控訴人標章4から「白砂青松」の文字部分を抽出し,これと原告商標とを比較して商標そのものの類否を判断することは許されない旨主張する。
 しかしながら,前記(1)イ(ウ)で説示したとおり,控訴人の上記主張は採用することができない。
 イ 前記(1)ウで説示したのと同様の理由により,原告商標と控訴人標章4の要部である「白砂青松」の文字部分は,称呼及び観念が同一であり,また,横書きと縦書きの違い及び字体の違いがあるが,構成する文字が「白砂青松」の漢字4文字である点で共通することから,外観は,類似するといえる。
 そうすると,原告商標及び控訴人標章4が原告商標の指定商品である日本酒に使用された場合には,その商品の出所について誤認混同を生ずるおそれがあるものといえるから,控訴人標章4は全体として原告商標に類似する商標であるものと認められる。

 (5) 小括
 以上のとおり,控訴人各標章はいずれも原告商標に類似する商標であるものと認められる。

 争点2(先使用権の有無)について

  被告は,原告商標の登録出願時において,控訴人各標章は被告の商品を表示するものとして需要者の間に広く認識されていたのであるから,被告は控訴人各標章について先使用権を有すると主張する。
 (1) しかし,被告商品の販売数については,上記1(2)アのとおり,取引記録の残っている平成22年10月1日から平成27年9月30日までの5年間で720ミリリットル瓶について年間平均1580本,1.8リットル瓶について829本であると認められ,原告商標の登録出願時の販売数もほぼ同様であったと推認することが相当である。同販売数は,控訴人各標章が需要者の間で周知であったと認めるに足りるに十分なものということはできない。
 また,原告登録の出願時の販売地域は主として茨城県内であったと認められるのであり,同時点において茨城県及びその周辺地域においてその市場占有率が特に高かったという事情や同地域の飲食店等の多くで被告商品が提供されていたことをうかがわせる証拠も存在しない。
 さらに,被告は,その取引先に対して取引実績に関する照会をしているが (乙39),証拠として提出されたその回答(乙42~51)は10件にとどまり,その中には被告商品の購入がない又は購入数が確認できないとするものも少なからず含まれるのであり,同回答は,控訴人各標章が原告商標の登録出願時に周知であったことを裏付けるに足りるものではない。

 (2) 被告は,新聞や雑誌に被告商品が紹介されたことなどをもって,控訴人各標章は原告商標の登録出願時に周知であったと主張する。
 しかし, 被告商品の販売開始(平成11年10月)から原告商標の登録出願時(平成18年4月)までの間に被告商品が新聞,雑誌等で取り上げられたのは合計4回にすぎず,これをもって,原告商標の登録出願時において被告標章が周知であったと認めることはできない。
 また,被告は,そのホームページ上に被告商品を掲載し,広報を行ったとも主張するが,前記のとおり,被告がホームページを開設した時期を客観的に示す証拠はなく,仮に,その開始時期が原告商標の登録出願前であったとしても,ホームページ上に商品を掲載したことから直ちに控訴人各標章が同時点において周知であったと認めることはできない。
 (3) 以上によれば,控訴人各標章は,原告商標の登録出願時において,茨城県及びその周辺地域の需要者の間で広く知られていたということはできない。したがって,先使用権が認められるためには一定地域内で広く知られていれば足りるとの被告の主張を前提としても,被告が先使用権を有すると認めることはできない。

 争点3(権利濫用の抗弁の成否)について

 被告は,原告が,原告商標の登録から約10年以上の間,控訴人各標章が使用されていることを知りながら格別の措置を講じなかったにもかかわらず,平成28年になってその権利行使をすることは権利濫用に当たると主張する。
 しかし,商標権を行使するかどうかは権利者の判断に委ねられる事柄であり,前記1(3)記載の認定事実に照らしても,原告が被告に対し控訴人各標章の使用を容認していたにもかかわらず取引上の信義則に反して権利行使に及んだなどの特段の事情は認められない。
 また,原告が原告商標を付して原告商品の販売を継続していることは,前記20 のとおりであり,原告が標準文字ではない字体の文字を付して原告商品を販売していることから原告の権利が保護に値しないということもできない。
 さらに,被告は,原告が誤認混同を惹起する意図を有していた,虚偽の事実を需要者等に告知,流布したなどと主張するが,いずれも理由がない。
 以上のとおり,控訴人各標章を付して被告が被告商品の販売等を行っていること25 に対し原告が原告商標に基づく差止請求をすることが権利濫用に当たるということはできない。
 したがって,被告の権利濫用の主張は理由がない。

 以上によれば,控訴人による控訴人各標章をラベル又は木箱に付した被告商品の販売行為等は,被控訴人の本件商標権の侵害に該当するものと認められる。

検 討

 本判決に賛成。

 コメント

 原告(被控訴人)は茨城県那珂郡で酒店を営んでいる商標権者河野雅史氏、被告(控訴人)は茨城県日立市で酒造業を営んでいる森島酒造株式会社である。
 森島酒造(株)は1999年10月以降「白砂青松」を瓶のラベルに付して日本酒を販売していたが、商標登録出願していなかった。一方、河野商店は2006年から清酒「白砂青松」の販売を開始し、商標登録出願をし、商標登録を受けていた。
 森島酒造(株)は、商標の非類似の他、自らに先使用権があること及び河野商店が登録後10年以上経過後に権利主張するのは権利の乱用であることを主張したが、いずれも認められなかった。
 森島酒造(株)は「白砂青松」の使用開始時に商標登録出願を怠ったために永年に亘って育ててきたブランドを失ったという(商標登録の重要性を示す)事例である。

以 上

2017年4月9日日曜日

基生会、春に集まる。
勝どきのイタリアレストランです。Vialetto(ヴィアレット)
7名が集まりました。今回来られなかった1人は心筋梗塞を煩いカテーテル治療を受けたということです。このような世代です。

2017年3月7日火曜日

商標権の移転が利益相反にあたる場合

やっと解ったような気がします。

 「利益相反」とは、取締役と会社との利害が相反することをいいます。具体的には、譲渡人と譲受人の代表取締役が同一人の場合です。
 「利益相反行為」に該当する場合には、商標権の移転登録の申請の際に譲渡証書に加えて取締役議事録を提出する必要があります。取締役会を設置していない会社は、株主総会において承認を得る必要があります。さらに、取締役会を設置していない会社であることを証明する書類の提出も必要です。具体的には、登記事項証明書(「履歴事項全部証明書」・「現在事項全部証明書」など)。登記事項証明書は、取締役会又は株主総会の開催日以後に認証されたものであることが必要です。
 なお、会社法では、取締役についての規定であるが、特許庁の実務では、代表取締役の表記がある者について適用している。日本の会社法が適用されない外国人については、たとえ代表取締役であろうと適用されません。
 譲渡対価が無償の場合、譲渡人の取締役会(株主総会)議事録の提出だけでよく、譲受人には必要とされません。無償だから、譲受人に不利益とはならないからです。
 譲渡の対価が有償の(譲渡証書に「無償で」と記載していない)場合、譲渡人のみならず譲受人の取締役会(株主総会)議事録の提出が必要です。

2016年6月10日金曜日

特許(均等論)についての知財高裁大合議判決 マキサカルシトール事件

知財高裁H28・3・25判決 H27(ネ)10014号 マキサカルシトール事件

原審 東京地裁H26・12・24判決 H25年(ワ)4040号)

事実の概要

 原告が被告らの行為が本件特許権(特許第3310301号 発明の名称「ビタミンDおよびステロイド誘導体の合成用中間体およびその製造方法」)を侵害するとして、東京地裁に被告らによる被告製品の輸入、譲渡等の行為の中止等を求めた。原告は、活性型ビタミンD3誘導体であるマキサカルシトールを有効成分とする角化症治療剤を製造販売しており、マキサカルシトールを含む化合物についての特許権は、存続期間の延長登録を経て、平成22年12月26日に存続期間が満了している。
 原審は,控訴人方法が訂正後の特許請求の範囲の請求項13に係るマキサカルシトールを含む、活性型ビタミンD3誘導体の製造方法に関する発明(以下「訂正発明」という。)と均等であることを認め,また,本件発明に係る特許が特許無効審判により無効にされるべきものとは認められないと判断して,原告の請求を全部認容したため,控訴人(原審被告)らが,原判決を不服として,本件控訴をした。
 控訴審の審理中に,上記訂正を認める旨の審決が確定した。

判 旨

 控訴棄却。知財高裁は、大合議審理において,控訴人方法は,訂正発明と均等であり,また,訂正発明についての特許が特許無効審判により無効にされるべきものとは認められないものと判断した。

 1 訂正発明との均等の成否について

 (1) 均等の5要件及び立証責任について

 (ボールスプライン事件最判を引用後)
 「そして,第1要件ないし第5要件の主張立証責任については,均等が,特許請求の範囲の記載を文言上解釈し得る範囲を超えて,これと実質的に同一なものとして容易に想到することのできるものと認定される範囲内で認められるべきものであることからすれば,かかる範囲内であるために要する事実である第1要件ないし第3要件については,対象製品等が特許発明と均等であると主張する者が主張立証責任を負うと解すべきであり,他方,対象製品等が上記均等の範囲内にあっても,均等の法理の適用が除外されるべき場合である第4要件及び第5要件については,対象製品等について均等の法理の適用を否定する者が主張立証責任を負うと解するのが相当である。」

 (3) 均等の第1要件(非本質的部分)について

 ア 本質的部分の認定について

 「特許法が保護しようとする発明の実質的価値は,従来技術では達成し得なかった技術的課題の解決を実現するための,従来技術に見られない特有の技術的思想に基づく解決手段を,具体的な構成をもって社会に開示した点にある。したがって,特許発明における本質的部分とは,当該特許発明の特許請求の範囲の記載のうち,従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分であると解すべきである。
 そして,上記本質的部分は,特許請求の範囲及び明細書の記載に基づいて,特許発明の課題及び解決手段 (特許法36条4項,特許法施行規則24条の2参照)とその効果(目的及び構成とその効果。平成6年法律第116号による改正前の特許法36条4項参照)を把握した上で,特許発明の特許請求の範囲の記載のうち,従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分が何であるかを確定することによって認定されるべきである。すなわち,特許発明の実質的価値は,その技術分野における従来技術と比較した貢献の程度に応じて定められることからすれば,特許発明の本質的部分は,特許請求の範囲及び明細書の記載,特に明細書記載の従来技術との比較から認定されるべきであり,そして,①従来技術と比較して特許発明の貢献の程度が大きいと評価される場合には,特許請求の範囲の記載の一部について,これを上位概念化したものとして認定され(後記ウ及びエのとおり,訂正発明はそのような例である。),②従来技術と比較して特許発明の貢献の程度がそれ程大きくないと評価される場合には,特許請求の範囲の記載とほぼ同義のものとして認定されると解される。」
 「また,第1要件の判断,すなわち対象製品等との相違部分が非本質的部分であるかどうかを判断する際には,特許請求の範囲に記載された各構成要件を本質的部分と非本質的部分に分けた上で,本質的部分に当たる構成要件については一切均等を認めないと解するのではなく,上記のとおり確定される特許発明の本質的部分を対象製品等が共通に備えているかどうかを判断し,これを備えていると認められる場合には,相違部分は本質的部分ではないと判断すべきであり,対象製品等に,従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分以外で相違する部分があるとしても,そのことは第1要件の充足を否定する理由とはならない。」

 エ 訂正発明の本質的部分

 訂正発明の上記課題及び解決手段とその効果に照らすと,訂正発明の本質的部分(特許請求の範囲の記載のうち,従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分)は,ビタミンD構造又はステロイド環構造の20位アルコール化合物を,末端に脱離基を有する構成要件B-2のエポキシ炭化水素化合物と反応させることにより,一工程でエーテル結合によりエポキシ基を有する側鎖を導入することができるということを見出し,このような一工程でエーテル結合によりエポキシ基を有する側鎖が導入されたビタミンD構造又はステロイド環構造という中間体を経由し,その後,この側鎖のエポキシ基を開環するという新たな経路により,ビタミンD構造又はステロイド環構造の20位アルコール化合物にマキサカルシトールの側鎖を導入することを可能とした点にあると認められる。


(マキサカルシトール Maxacalcitol)

 一方,出発物質の20位アルコール化合物の炭素骨格(Z)がシス体又はトランス体のビタミンD構造のいずれであっても,出発物質を,末端に脱離基を有するエポキシ炭化水素化合物と反応させることにより,出発物質にエーテル結合によりエポキシ基を有する側鎖が導入された中間体が合成され,その後,この側鎖のエポキシ基を開環することにより,マキサカルシトールの側鎖を導入することができるということに変わりはない。この点は,中間体の炭素骨格(Z)がシス体又はトランス体のビタミンD構造のいずれである場合であっても同様である。したがって,出発物質又は中間体の炭素骨格(Z)のビタミンD構造がシス体であることは,訂正発明の特許請求の範囲の記載のうち,従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分とはいえず,その本質的部分には含まれない。

 オ 控訴人方法の第1要件の充足

 控訴人方法は,ビタミンD構造の20位アルコール化合物(出発物質A)を,末端に脱離基を有する構成要件B-2のエポキシ炭化水素化合物と同じ化合物(試薬B)と反応させることにより,出発物質にエーテル結合によりエポキシ基を有する側鎖が導入されたビタミンD構造という中間体(中間体C)を経由し,その後,この側鎖のエポキシ基を開環することにより,マキサカルシトールの側鎖をビタミンD構造の20位アルコール化合物に導入するものであるから,訂正発明の特許請求の範囲の記載のうち,従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分を備えているといえる。
 一方,控訴人方法のうち,訂正発明との相違点である出発物質及び中間体の「Z」に相当するビタミンD構造がシス体ではなく,トランス体であることは,前記エのとおり,訂正発明の本質的部分ではない。
 したがって,控訴人方法は,均等の第1要件を充足すると認められる。

 (4) 均等の第2要件(置換可能性)について

 控訴人方法における上記出発物質A及び中間体Cのうち訂正発明のZに相当する炭素骨格はトランス体のビタミンD構造であり,訂正発明における出発物質(構成要件B-1)及び中間体(構成要件B-3)のZの炭素骨格がシス体のビタミンD構造であることとは異なるものの,両者の出発物質及び中間体は,いずれも,ビタミンD構造の20位アルコール化合物を,同一のエポキシ炭化水素化合物と反応させて,それにより一工程でエーテル結合によりエポキシ基を有する側鎖が導入されたビタミンD構造という中間体を経由するという方法により,マキサカルシトールを製造できるという,同一の作用効果を果たしており,訂正発明におけるシス体のビタミンD構造の上記出発物質及び中間体を,控訴人方法におけるトランス体のビタミンD構造の上記出発物質及び中間体と置き換えても,訂正発明と同一の目的を達成することができ,同一の作用効果を奏しているものと認められる。

 (5) 均等の第3要件(置換容易性)について

 そうすると,控訴人方法の実施時(本件特許権の侵害時)において,訂正発明の目的物質に含まれるマキサカルシトールを製造するために,訂正発明の出発物質における「Z」として,シス体のビタミンD構造の代わりに,トランス体のビタミンD構造を用い,この出発物質Aを,訂正発明の試薬と同一の試薬Bと反応させて,トランス体である以外には訂正発明の中間体と異なるところがない中間体Cを生成すること,中間体Cの側鎖のエポキシ基を開環してマキサカルシトールの側鎖を有するトランス体である物質Dを得ること,最終的には物質Dに光照射を行いシス体へと転換し,水酸基の保護基を外して,訂正発明の目的物質と同じマキサカルシトールを製造するという控訴人方法は,当業者が訂正発明から容易に想到することができたものと認められる。
 したがって,控訴人方法は,均等の第3要件を充足すると認められる。

 (6) 均等の第4要件(対象方法の容易推考性)について

 控訴人らは,控訴人方法は,乙4文献に基づき,本件優先日当時容易に推考ができた旨を主張する。しかし,控訴人らの同主張が認められないことについては,原判決の「事実及び理由」の第4の4(1)ないし(6)に判示のとおりであるから,これを引用する。
 したがって,控訴人方法について,均等の第4要件における対象方法の容易推考性は認められない。

 (7) 均等の第5要件(特段の事情)について

 ア 第5要件の判断基準について

  (ア) この点,特許請求の範囲に記載された構成と実質的に同一なものとして,出願時に当業者が容易に想到することのできる特許請求の範囲外の他の構成があり,したがって,出願人も出願時に当該他の構成を容易に想到することができたとしても,そのことのみを理由として,出願人が特許請求の範囲に当該他の構成を記載しなかったことが第5要件における「特段の事情」に当たるものということはできない。
 なぜなら,①上記のとおり,特許発明の実質的価値は,特許請求の範囲に記載された構成以外の構成であっても,特許請求の範囲に記載された構成からこれと実質的に同一なものとして当業者が容易に想到することのできる技術に及び,その理は,出願時に容易に想到することのできる技術であっても何ら変わりがないところ,出願時に容易に想到することができたことのみを理由として,一律に均等の主張を許さないこととすれば,特許発明の実質的価値の及ぶ範囲を,上記と異なるものとすることとなる。また,②出願人は,その発明を明細書に記載してこれを一般に開示した上で,特許請求の範囲において,その排他的独占権の範囲を明示すべきものであることからすると,特許請求の範囲については,本来,特許法36条5項,同条6項1号のサポート要件及び同項2号の明確性要件等の要請を充たしながら,明細書に開示された発明の範囲内で,過不足なくこれを記載すべきである。しかし,先願主義の下においては,出願人は,限られた時間内に特許請求の範囲と明細書とを作成し,これを出願しなければならないことを考慮すれば,出願人に対して,限られた時間内に,将来予想されるあらゆる侵害態様を包含するような特許請求の範囲とこれをサポートする明細書を作成することを要求することは酷であると解される場合がある。これに対し,特許出願に係る明細書による発明の開示を受けた第三者は,当該特許の有効期間中に,特許発明の本質的部分を備えながら,その一部が特許請求の範囲の文言解釈に含まれないものを,特許請求の範囲と明細書等の記載から容易に想到することができることが少なくはないという状況がある。均等の法理は,特許発明の非本質的部分の置き換えによって特許権者による差止め等の権利行使を容易に免れるものとすると,社会一般の発明への意欲が減殺され,発明の保護,奨励を通じて産業の発達に寄与するという特許法の目的に反するのみならず,社会正義に反し,衡平の理念にもとる結果となるために認められるものであって,上記に述べた状況等に照らすと,出願時に特許請求の範囲外の他の構成を容易に想到することができたとしても,そのことだけを理由として一律に均等の法理の対象外とすることは相当ではない。
 (イ) もっとも,このような場合であっても,出願人が,出願時に,特許請求の範囲外の他の構成を,特許請求の範囲に記載された構成中の異なる部分に代替するものとして認識していたものと客観的,外形的にみて認められるとき,例えば,出願人が明細書において当該他の構成による発明を記載しているとみることができるときや,出願人が出願当時に公表した論文等で特許請求の範囲外の他の構成による発明を記載しているときには,出願人が特許請求の範囲に当該他の構成を記載しなかったことは,第5要件における「特段の事情」に当たるものといえる。
 なぜなら,上記のような場合には,特許権者の側において,特許請求の範囲を記載する際に,当該他の構成を特許請求の範囲から意識的に除外したもの,すなわち,当該他の構成が特許発明の技術的範囲に属しないことを承認したもの,又は外形的にそのように解されるような行動をとったものと理解することができ,そのような理解をする第三者の信頼は保護されるべきであるから,特許権者が後にこれに反して当該他の構成による対象製品等について均等の主張をすることは,禁反言の法理に照らして許されないからである。

 したがって,控訴人方法について,均等の第5要件における特段の事情は認められない。

 (8) 小括

 以上によれば,控訴人方法は,訂正発明と均等であり,その技術的範囲に属するものと認められる。

 3 訂正発明についての無効理由の有無について

  「そうすると,当業者において,本件試薬を乙14発明と組み合わせる動機付けがあるとはいえないから,相違点2(試薬の相違)に係る訂正発明の構成は,当業者において容易に想到することができたものとはいえない。
 (イ) また,当業者において,乙14発明のエポキシド化合物に代えて,訂正発明の中間体であるエポキシド化合物を得ようとする動機付けは,乙14文献にも,本件訴訟に提出された他の公知文献にも記載されておらず,その示唆もない。
 したがって,相違点3(エポキシド化合物の相違)に係る訂正発明の構成についても,当業者において容易に想到することができたものとはいえない。」

 3 まとめ

  以上によれば,控訴人方法は,訂正発明と均等なものとして,訂正発明の技術的範囲に属するものと認められる。また,訂正発明について控訴人らが主張する無効理由はいずれも理由がなく,訂正発明についての特許が特許無効審判により無効にされるべきものとは認められない。
 そして,前記前提となる事実によれば,控訴人製品はいずれも控訴人方法によって製造されたものであるから,控訴人製品1を輸入し又は譲渡する行為及び控訴人製品2を譲渡し又は譲渡の申出をする行為は,いずれも本件特許権を侵害する。したがって,本件特許権の存続期間の延長登録がされる前における存続期間の末日である平成29年9月3日まで,控訴人DKSHに対しては控訴人製品1の輸入又は譲渡の差止め及び廃棄を,控訴人岩城製薬,控訴人高田製薬及び控訴人ポーラファルマに対してはそれぞれ控訴人製品2(1)ないし(3)の譲渡又は譲渡の申出の差止め及び廃棄を求める被控訴人の請求は,いずれも理由がある。

 第5 結論

  以上によれば,被控訴人の請求をいずれも認容した原判決は相当であり,控訴人らの本件控訴はいずれも理由がない。

検 討

 立証責任

 従来から均等の第1要件ないし第3要件の立証責任は均等の主張者にあり、第4要件と第5要件は抗弁権であるという考えがあったが、5要件は均等の主張要件であるのですべて均等の主張者に立証責任があるという主張もあった。
 本判決で初めて、知財高裁が第1要件ないし第3要件は,対象製品等が特許発明と均等であると主張する者が主張立証責任を負い,第4要件及び第5要件は,均等の法理の適用を否定する者が主張立証責任を負うことを示した。

 第1要件(非本質的部分)

 これまでの判決では、(非)本質的部分の認定にあたり、イ号物件は考慮することなく、請求項の各構成要件を本質的部分と非本質的部分に分ける説(技術的特徴説)と、置換されたイ号物件が特許発明の技術的思想の範囲内にあるかによって判断する説(技術的思想(同一特)説)に別れていたが、本判決は後者を採用した。
 ボールスプライン事件最判の第1要件から直接には読めないが、一旦本質的部分と認定されれば、一切均等が否定される技術的特徴説ではなく、従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分が何であるかを確定し、特許発明の本質的部分を対象製品等が共通に備えているかどうかにより認定する技術的思想(同一)説に立つ判決は多かった。

 第2要件(置換可能性)

 単に、「訂正発明におけるシス体のビタミンD構造の上記出発物質及び中間体を,控訴人方法におけるトランス体のビタミンD構造の上記出発物質及び中間体と置き換えても,訂正発明と同一の目的を達成することができ,同一の作用効果を奏しているものと認められる。」と認定している。
 第1要件について技術的思想(同一特)説を採用すると、第1要件と第2要件の異同が議論され、両者は同義との考えもある。(田村善之「均等論における本質的部分の要件の意義-均等論は「真の発明」を救済する制度か?-」同『特許法の理論』(2009年・有斐閣)108頁参照)

 第3要件(置換容易性)

 控訴人方法の実施時(本件特許権の侵害時)に,訂正発明の出発物質を,シス体の代わりに,トランス体のビタミンD構造を用い,最終的には物質Dに光照射を行いシス体へと転換し,訂正発明の目的物質と同じマキサカルシトールを製造するという控訴人方法は,当業者が訂正発明から容易に想到することができたものと認定した。つまり、当業者の認識により容易想到性を基礎付けた。
 一方、出願時に既に存在していた他の物質、技術との置換は、出願時に容易に想起できたにもかかわらず、クレームに含めなかったので、当該他の物質等に置換した構成は意識的に除外したものであり、「特段の事情」あたるという(三村量一・髙部眞規子らの)考えがあった。

 第4要件(対象方法の容易推考性)

 「仮想的クレーム」の要件ともいう。本判決により、第4要件の立証責任が被疑侵害者にあることを確認した。

 第5要件(特段の事情)

 特許請求の範囲に記載された構成と実質的に同一なものとして,出願時に当業者が容易に想到することのできるクレームの範囲外の他の構成があり,したがって,出願人も出願時に当該他の構成を容易に想到することができたとしても,そのことのみを理由として,出願人がクレームに当該他の構成を記載しなかったことが「特段の事情」に当たるものということはできないが、出願時に,当該他の構成を,クレームに記載された構成中の異なる部分に代替するものとして認識していたものと客観的,外形的にみて認められるとき,「特段の事情」に当たると判示した。
 そして、「特段の事情」に当たる例として,出願人が明細書において当該他の構成による発明を記載しているときや,出願人が出願当時に公表した論文等で当該他の構成による発明を記載しているときを挙げた。例として、出願当時に公表した論文に記載しているときを挙げているが、疑問である。最も、出願前であれば特許要件の問題となり、出願後であれば「特段の事情」にはならないであろう。

※ 本検討は、北海道大学教授 田村善之氏の講演(平成28年6月3日、日本弁理士会主催)に感受された。

以 上

2016年2月15日月曜日

特許関連の出願・登録・年金の印紙代が4月1日から減額

2016年4月1日から特許及び商標の出願時・登録時・更新時に支払う特許印紙代が下がります。
(詳細は、特許庁のサイト参照) 商標では、次の表に示すとおりです。現行の約75%になりますから、1/4減額となります。